俺様キューピッド
俺様キューピッド
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龍平には幸せになって欲しいから、龍平が幸せなら僕は、もうそれだけでいい。
龍平が春川くんと付き合うことを望んだんだから。
「―――っっ」
そんなことを考えていたら、鼻の奥がつんとした。
それをいま切っている玉ねぎのせいにして、絆創膏を貼った指で涙を拭う。
「ハルっちー、大丈夫ぅ?」
そんな春川くんの声がダイニングから聞こえたから、できるだけ明るい声で、
「なんでもないよ」
と、大きな声で返事をする。
…大丈夫、だよね。
僕、ちゃんと笑えてるよね。
呪文のように心の中でそう繰り返しながら、なんとか夕食の準備をやり遂げた。
因みに、大皿に盛り付けたサラダは春川くん作で、それ以外の料理は僕だ。
「春川くーん。用意できたから運んでくれるぅ?」
ダイニングに向かって呼び掛けたら、
「はーい」
素直なまるで子供のような返事が返ってくる。
とっさに怪我をした指を隠したけど、春川くんは特に気にしてはいない。
なんていうか……、春川くんはこういうところがあるんだよね。
真っすぐで前向きな性格だからか少し前に起きたこと、もちろん失敗なんかも忘れてるというか……。
自分のことに一生懸命な反面、周りは何も見えなくなっちゃうところが。
「うわーっ、すごい。いいなあハルっち。お料理が上手で」
「そうかな。てか、春川くんのサラダも美味しそう」
「へへっ、そう思う?」
春川くんは、お母さんに褒められた子供のように、
「今までで一番自信作なんだ」
満面の笑顔で笑いながら、
「龍平、喜んでくれるかな」
そう言うと、真っ先に自信作のサラダをダイニングのテーブルへと運んだ。
うちの学園の学生寮は、一、二年生は基本的に二人部屋の相部屋になっていて、一般的な部屋は僕らの部屋のように2LDKのマンスリーマンション風の造りになっている。
三年生は、全ての部屋が一人部屋で、例外的に生徒会役員とA組の特進クラスだけは一、二年生でも一人部屋だ。
ただし、生徒会役員でも補佐役で、正規のメンバーじゃない春川くんは対象外になる。
春川くんが平凡で目立たない人畜無害な僕と同室なのは、人気者の春川くんだからこそなんだろうと思う。
一応は二人部屋の規則を守らなきゃいけないから、安全牌(パイ)として僕が春川くんのルームメートに選ばれたんだろう。
僕が春川くんを襲うことなんて絶対ないから。
なんでかよくわからないけど、そう思うとまた悲しくなった。
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