俺様キューピッド
俺様キューピッド
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僕のようにそれなりになんでも自分でできちゃうと、自分一人の世界の出来事で完結してしまう。
それが春川くんの世界では、王子様のような誰かが春川くんに手を差し延べて、二人で同じ時間を共有しながら協力し合ってそれをやり遂げることになる。
その王子様が龍平だったわけで、半ば天然とも言える無意識さで龍平を巻き込んじゃった春川くんに、僕は少なからず嫉妬していた。
「…はあ」
春川くんがすごくいい子なのは、よく知ってる。
「んー……」
あと、龍平がそんな危なっかしい子を放っておけない性格なのも知っている。
「嫉妬かあ…我ながら醜いなあ……」
確かに僕はいま春川くんに嫉妬しているわけだから、会長が言いたいこともよくわかる。
「けど……」
だけど、僕と会長が付き合って仲良くしたとしても、龍平が嫉妬してくれるとは到底思えなかった。
嫉妬どころか友達思いの龍平のことだから、自分のことのように手放しで喜んではくれるだろうけど。
「…っっ、たっ!」
ぼんやりそんなことを考えていたからか、久しぶりに包丁で手を切ってしまった。
さっき春川くんが怪我をした指と同じ人差し指に、ぷっくりと血が丸く浮かんでいる。
「またやっちゃった…」
その指を軽く口に含んで止血して、ポケットの絆創膏を自分で貼った。
中断した調理を続けながら、僅かに血がにじむ絆創膏をぼんやり眺めて思いをめぐらせる。
…違うな。
なんでも自分でできるから王子様が現れないんじゃなくて、王子様が現れないのを知っているから、僕は、なんでも一人でできるようになっただけだ。
僕を手伝ってくれるひとが誰もいなかったから、全部自分でするしかなかった。
だから本当にできないのは運動全般くらいで、それ以外のことはだいたい人並み程度かそれ以上にできるようになってしまった。
「…そんなの可愛くないよね」
わかってるんだけどな。
「恋人ごっこかぁ……」
だから、会長が協力するって言ってくれて、本当はとても嬉しかった。
ちょっと俺様だけど頼りになるキューピッドが目の前に現れたみたいで、会長の頭の上に輪っかと背中に真っ白で大きな翼の幻が見えたぐらいに。
「…龍平と春川くん、か」
だけどやっぱり、龍平が僕と付き合うようになったら嬉しいとは思うけど、二人の仲を壊すつもりは全くない。
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