俺様キューピッド
俺様キューピッド
[9/96]
恋人ごっこ
「えっと、そういうことで、お付き合いすることになりました」
あれから僕は会長に寮の部屋まで送ってもらって、二人の共同スペースのリビングで春川くんとソファーに座っています。
ちなみにお付き合いの報告をしたのが僕で、テレビの前に隣り合わせに座って、
「うそ……」
そう呟いたのが春川くん。
春川くんは目を真ん丸にして、とても驚いた顔をしている。
うんうん。
そうだろうね。
僕もまだ自分のことなのに信じられないもん。
それでも次の瞬間、
「きゃー。ハルっち、おめでとう!」
そう叫びながら、春川くんは僕に抱き着いてきた。
「わっ、わわっ」
バランスを崩した僕にはお構いなしに、
「二人いっぺんに彼氏ができるなんてすごいよね」
今日はお祝いしようよって、春川くんは携帯電話に手を伸ばす。
「あ。もしもし龍平?」
春川くん……、夏休み前まで龍平のこと登坂くんって名字で呼んでたのに。
名前で呼べるの、幼なじみである僕の特権だったのに。
二人は僕が実家でのんびりしてる間に、夏休みの生徒会で急接近したそうだ。
ちなみに告白したのは龍平の方。
無邪気で真っすぐで嘘をつけない春川くんを放っておけないって、そう言ったんだそうだ。
僕とは正反対な春川くん。
僕は自分の思ってることの半分も言えない。
『おめでとう。よかったね』
いつも口から出るのは反対のこと。
体育の授業中、二人三脚をして春川くんと二人でこけた時も、
『僕は大丈夫だから、春川くんを見てあげて』
強がりとかツンデレとはまた違うかな。
ぶりっ子でもない。
けど、思わずそう言ってしまうんだ。
「ハル。そんなに怖がるな。大丈夫、恋人ごっこだから」
実は会長から告白された後、僕はまた会長に頭を撫でなられながらそんなことを言われた。
「恋人ごっこ?」
「そう。ハル、まだ登坂のことが好きなんだろう?」
「あ……」
一瞬だけ恋人ごっこと言われて残念に思ったけど、そう言われて僕はホッとした。
つまり、僕と会長のお付き合いは、実はカモフラージュで偽者の恋人同士だったりする。
[ 前へ | 次へ ]
9/114ページ
[ PageList | List | TopPage ]
Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved.