俺様キューピッド
俺様キューピッド
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…あれ?
なんで僕、会長に抱きしめられているんだろう。
と、いうか、この場面。
デジャビュかな。
なんというか……、何かを思い出しそうな。
会長のお陰で、カタカタと小さく震えていたのもおさまった。
ゴロゴロと不気味な音も、ピカピカと不吉な稲光さえも気にならない。
なんでだろ。
会長って怖いのに安心する。
お兄ちゃんってこんな感じなのかな。
「…きゃっ」
あ。
いきなり大きいのがきて、また女の子の声みたいなのが出ちゃった。
途端、抱きしめる力が強くなる。
僕が落ち着くまで、雷がどこかへ行っちゃうまで、会長はずっとそうしていてくれた。
「えっと……、すみません。ありがとうございます」
「ん。落ち着いたか?」
「あ、はい」
雨が上がって辺りが明るくなってきたから、僕は会長の胸に両手をついて会長から離れた。
名残惜しそうに腕の力が緩んで、その手がまた頭を撫でてくる。
「なあハル。俺のものにならないか?」
「へ?」
その時、突然真剣な顔でそう言われて、思わず会長の顔を二度見してしまった。
「え、えっと……」
「悪いようにはしないから」
でもね会長。
僕、今日失恋したばかりだよ?
それよりなんで僕なのかがわからなかった。
金太郎の僕が、ちょっとだけ見た目が恐持てだけど王子様とか騎士のような会長のとなりが似合うはずがない。
「返事は『イエス』か『はい』のどちらかだ。異論は認めない」
「え、えっと……」
そんなラブストーリーでは王道展開な台詞を言われたけど、そう言われてもまだ僕は龍平が好きだから。
「ごめんなさ……」「返事は『イエス』か『はい』だ」
「い、イエス?」
わ、会長の迫力に押されて思わず返事をしちゃったよ。
しかも、よりにもよって『はい』じゃなくって『イエス』とか。
「…ぶっ。よくできました」
そう言って、また僕の頭を撫でてくる会長の顔が少しだけ悲しそうで、でも、次の瞬間ふわって綺麗に笑った。
井上晴陽、16歳。
今日、恋人いない歴=年齢に終止符を打って、おまけに男前で、ちょっぴり俺様な彼氏ができました。
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