俺様キューピッド
ぽっちゃりキューピッド

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機内アナウンスが離陸を告げる。
僕はぎゅっと手を握って、きつくきつく目を閉じた。
本当は飛行機なんか大嫌いだ。
そもそも、なんでこんな重いものが空を飛べるのかが理解できない。

こんなんで僕、長いフライトが我慢できるのかな。
フライト時間は半日以上あるのに。

一応は、毎年一回はお母さんの故郷に遊びに行っている。
お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも僕が来るのを楽しみにしてくれるけど、到着までのこの時間だけは苦痛だった。

寝たり、音楽を聞いたり、映画を観たり。
いろんな過ごし方ができるけど、今日の僕は、無性に龍平の声が聞きたかった。

当たり前だけど、携帯の電源は落としてある。
あと12時間は龍平の声を聞けない。
龍平、心配してくれてるかな。
てか、龍平にまで迷惑かけちゃった。


電源を落とす直前に、ハルっちには『一週間ぐらいで帰るから心配しないで』って電話した。
龍平には、いつものお弁当を龍平が来る前の剣道場に置いて、ハルっちのと同じ内容のメモを添えてきた。

行き場所は特に言わなかったけど、きっと叔父さん…じゃなかった。
理事長が上手く言ってくれてるはず。
ピンピンしてるお母さんを病人にしちゃって、ちょっぴり心が痛むけど。



なんでかな。
昨日も龍平と一緒にいたのに。
何故だかいたたまれなくなっちゃって、気付けばいつでも使える特別な航空券を使って、フランス行きの飛行機に飛び乗っていた。


わかってる。
僕のわがままっていうか、僕が気にしすぎだってことは。
龍平に限って僕を捨てるようなことは絶対にしないし、けど、ハルっちが会長と付き合い始めてからの龍平は、明らかにおかしかった。



僕じゃだめなのかなあ…。
えと、恋人って意味じゃなく、僕じゃ龍平の力になれないのかな。

好きな人が悩んでるんだから、僕がなんとかしてあげたい。
だけど、何かあったのかさえ聞けないし、僕が力になってあげるとも言い出せない。

トラウマって言うのかな。
暴走しすぎて空回った過去を思い出した僕はどうすることもできなくて、現実逃避するように逃げ出しちゃった。
出席日数は足りているから、一週間ぐらい休んでも支障はないだろうけど。


龍平の声が聞きたいな。
龍平に会いたい。

発作的に飛び出して来ちゃったけど、早くも後悔してる自分がいる。



結局はパリの空港に着くまでの間中、僕はずっとそんなことばかりを考えていた。


Bkmする
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