俺様キューピッド
ぽっちゃりキューピッド
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「あ、あのっ」
次の日、やっぱり春川くんが気になって仕方なくて、休み時間に岳先輩のクラスを訪ねた。
「あれっ、井上くんじゃん。どうしたの、三鷹に用事?」
「あっ、はい」
「おーい、三鷹。可愛い彼女が呼んでるぞー」
か、可愛い彼女って!
嬉しいけど…ちょっと複雑な気分。
確かに僕は『彼氏』と言うよりは『彼女』のがしっくり来るんだろうけど。
思った通りに注目を浴びて萎縮してたら、
「晴陽、どうした?」
岳先輩が少し焦り気味に僕の所まで来てくれた。
「えっと、ちょっとお話が……」
「晴陽」
「はい?」
「ちょっと出よう」
まるで漫画のように『ひゅーひゅー』と冷やかされるなか、一瞬だけギロリとクラスメートを睨んで、岳先輩は僕の手を取って歩き出した。
「ごめんなさい。急に来ちゃって」
「いや。構わない」
晴陽ならいつ来ても大歓迎だと笑いながら、
「だが、人に聞かれたくない話なんだろう?」
なんでもお見通しの先輩はそう言って、僕の頭を軽く撫でてくれた。
僕らがやって来たのは生徒会室がある屋上で、昼休みじゃない普通の休み時間は、他の誰もやって来る心配はない。
「あ。先輩。移動とか大丈夫ですか」
「ああ。心配ない」
先輩も教室移動がないことにホッとしつつ、
「春川くんのことなんですけど……」
僕はなんとか、かい摘まんで悩んでいることを口にした。
「春川くん。本当にお母さんの病気で帰ってるんでしょうか」
「ああ、それは……」
「昨日の夜、春川くんから一週間ぐらいで帰るって連絡はあったんですけどやっぱなんか気になって……」
「春川から連絡があったのか?」
「はい。けど、龍平が慌てて後を追ったみたいだけど、龍平のことはどうなったのか聞けなくて」
「…そうか」
そう言えば、理事長も『表向きはね』と少し困った顔でそう言っていた。
「龍平、今日も学校休んでるみたいだし、もし僕のせいで二人がおかしくなったんなら…」
「いや、晴陽は悪くない。俺がたきつけたせいだ」
「あっ、いえ!そう言うんじゃなくて!」
先輩のその一言にハッとした。
つい、先輩に甘えちゃったけど、これって、先輩に相談しちゃいけないことだったのかも知れない。
どうしていいのかがわからなくて、あたふたしている僕を、
「ハル」
「わ」
先輩は後ろから抱き寄せて、先輩の腕の中に抱き入れた。
背後からぎゅってきつく抱きしめられて、心臓辺りがきゅっとする。
先輩の温もりを背中から感じて、耳元に熱い吐息がかかる。
「せんぱ、い?」
「ハル」
「はっ、はい」
「それは二人の問題だ」
「やっぱ、そうですよね……」
お前が気にすることじゃないと続けながら、
「ひゃっ」
軽く耳たぶを甘噛みされる。
両思いになったあの日以来の甘い雰囲気に、僕の胸は制御不能なほど高鳴っていた。
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