俺様キューピッド
ぽっちゃりキューピッド
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「え?」
「いや、なんでもない。それより、時間は大丈夫?」
「あ!」
どうやらごまかされたみたいだったけど、そろそろ生徒会室に行かなくちゃ。
「まあ、詳しいことは、本人が帰って来てから本人に聞いてやってよ」
別れ間際にそう言って、理事長は少しだけ悲しそうに笑った。
「それじゃ、失礼します」
「うん、またね。気をつけて」
思わず駆け出す僕を見て、そんなことを言ってくれた理事長と別れ、生徒会室へと急ぐ。
それぞれに組分けされた教室の棟を横切り、専門的な授業を受ける特別教室が集まる棟へ。
途中、一階の保健室で春原先生に捕まって、最上階の職員室の前で廊下を走ってることを注意されながら、生徒会室がある屋上へと向かった。
「はあっ、やっと着いた…」
やっぱり、学校と寮の往復はきつい。
特に僕は運動が得意じゃないから、どうしてもへたれてしまう。
決して廊下を走ったから(先生、ごめんなさい!)じゃなくて、移動するだけでもかなり大変なんだけど。
「ああ、せこ(苦しい)…」※1
屋上へと続くドアの前の踊り場で、乱れた息を整える。
生徒会と風紀委員の執行部メンバーだけに渡されている特別なカードキーで屋上へと続くドアを開けると、オレンジ色の夕日が森の向こうに沈むのが見えた。
「ごめんなさい!遅れま…」「ハルくんっ!」
「えっ!?わわっ!」
生徒会室に入った途端、そこにいるはずがない人に抱き着かれて、思わずそんな声を上げてしまった。
「あっ、あの、東雲先輩…?」
「どうでもいいけど、そろそろ離れた方がいいんじゃない?うちの会長様がすごい顔で睨んでるけど?」
僕をしっかり胸に抱き込みながら、僕のお腹ら辺を撫でて、顔の横でハスハスやってるこの人は風紀委員長の東雲先輩だ。
視界の先にちらっと金髪が見えて、ふわふわのその髪が顔に掛かってくすぐったい。
頬に何か冷たいものが当たってるんだけど、きっと先輩のトレードマークでもあるピアスだろう。
と、その時、
「…おい。いつまでそうしている」
聞こえて来た怒りを含んだその声がした方を見ると、魔王のような冷たい目で僕らを見つめる岳先輩が、僕らの前で仁王立ちしていた。
※1
阿波弁では『胸やお腹が苦しい』ことを『せこい』と言うのです。
ちなみに、類義語で『辛い、体力的に苦しい』ことは『えらい』です。
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