俺様キューピッド
ぽっちゃりキューピッド
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「おっ、ハルくんか」
「こんにちは」
理事長の零二さんが僕に気づいて、気さくに声をかけてくれた。
理事長は春川くんのお父さんの弟で、彼は純粋な日本人だ。
春川くんのお母さんはフランス人だから、お母さんの兄弟だとフランス人になるけど。
噂どおりにちょっとだけホストっぽくて、とてもお洒落な格好をしている。
よく見ると細いストライプ模様のスーツに髪に隠れた耳にはピアス。
ネクタイも一般的なリクルートスーツには少し不似合いな、細めのビビットカラーのものを締めている。
茶髪な髪は毛先を遊ばせて、年齢的には30過ぎなのに、高校生の僕らとあまり変わらないくらいに若い。
身長がちょっと低めの春川くんと同じで、僕らよりは大きいけど、大人の中では小柄な方だ。
春川くんの黒目が多い童顔はどうやら父方の遺伝のようで、ジャンルに分けると春川くんと同じ、バンビやチワワ系の見た目をしている。
明るめの茶髪はチャラさを増大させるけど、理事長の場合は童顔さがチャラさに勝り、それこそホストっぽさを醸し出していた。
理事長は僕が春川くんとルームメイトだということを知ってるし、春川くんが消えた理由も知っているんじゃないかと思い立ち、
「あの、理事長」
「なんだい?」
「春川くん、どこにいるんですか?」
思わず直球で聞いてしまう。
すると、理事長はちょっと困った顔をして、頭を掻いて天を仰いだ。
日中の日射時間や気温もだいぶ下がったからか、夕方にもなると少し肌寒い。
そろそろ合服じゃなくて冬服に更衣した方がいいかな…なんて返事を待つ間にそう思う。
「んー」
と、唸った理事長は、
「蓮の母親がちょっと体調を崩してしまってね」
「えっ」
「急だったけど、蓮も一緒に、一時的にフランスに帰国したんだよ」
そう言うと、
「…表向きはね」
僕に聞こえない声で何かを呟いて、とても残念そうな顔をした。
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