俺様キューピッド
俺様キューピッド
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あー、うー、どうしよ。
天下の生徒会長様にお話するような重大な理由じゃないし。
でも話さなきゃ帰してくれないよね……。
はぁーっ。
大きく深呼吸をひとつ。
「…んと。今日、失恋したんです」
僕は覚悟を決めて話し始めた。
相変わらずぐだぐだで上手く喋れない僕を促すでも急かすでもなく、静かに僕の話を聞いてくれている会長。
途中変な日本語はやめろと敬語を禁止されたけど、それは僕には無理だって伝えたら、なら普通の敬語を使えとそう言ってくれた。
そこで初めて、緊張のあまり今まで変な敬語を使ってしまっていたことに気づく。
会長の優しさや気さくさに会長は雲の上の人じゃないってそう思えて、それからは、なんとかちゃんとした普通の敬語で話せるようになった。
降り出した雨は激しさを増し、遠くで微かに雷鳴が聞こえる。
「つまりは、登坂にフラれたと」
「…はい。っていうか、告白もしてないから僕が一方的に失恋しただけなんですけどね」
途中、龍平のことを話す時に何度か後ろの木の小枝を何故かパキッと折ってたけど、会長は黙って聞いてくれた。
初めて心に溜まっていたことを全部吐き出せて、それだけで少しだけ心が軽くなったような気がする。
「よく我慢したな」
「我慢?」
「登坂の前で泣かなかったんだろう?」
「それは……」
そう言われて、さっきまでぐっと堪えていた涙がぽろりと僕の頬を伝うのがわかった。
「泣くな」
「泣いてません。……雨です」
「ふふっ。そうか」
慌ててまたごまかしたけど会長にはお見通しだったようで、ぐりぐりと頭を撫でられた。
思わず零れた会長の笑顔が今までで一番優しくて、
「……ふっ、え」
また泣きたくなる。
…なんだろ、この感じ。
初めて触れられたはずの手なのに、なんだか懐かしさにきゅんとくる。
会長は僕が泣き止むまで、ずっとそうしていてくれた。
「――きゃっ」
次の瞬間、突然の大きな雷の音に小さく跳ねる。
わ、思わずヘンな声を出しちゃったよ。
「…相変わらず雷が苦手なんだな」
「え、な……、わわっ。光ったっ!」
両方の耳を塞いだ瞬間、会長の手がこちらに伸びてきて、正面からぎゅっと抱きしめられた。
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