俺様キューピッド
ぽっちゃりキューピッド

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結局は春川くんが教室に顔を出すことはなく、そのまま放課後を迎えてしまった。
つまりは春川くんは一日の授業を欠席したことになるんだけれど、なんとも言えない不安感が募る。

朝。僕が登校する時には春川くんの姿は、もう寮にはなかった。
てっきりいつものように登校したものだとばかり思っていたのに、一日姿を見ないままに学校での一日が終わった。

まだ放課後に生徒会の仕事は残っているんだけど、なぜだか嫌な予感しかしなくて。
ホームルームが終わってすぐにA組を覗いたら、そこには龍平の姿があった。

龍平に聞いてみようと一瞬思ったけど、取り敢えずは生徒会室に向かう前に一度寮の部屋に戻ってみることにした。
もしかして体調を崩したのならこないだのお返しに看病をさせてもらいたいし、そう思って寮への道のりを急ぐ。

「井上、怪我すんなよ」
「うん。ありがとうっ」

廊下を走ってたら何故か、止められるかわりになんか心配された。
どうやらいつもよりスピードが出ているようで、学校を出て寮へと続く門をくぐる。

「井上、転ぶなよ」
「はいっ。気をつけますっ!」

門番代わりの寮の管理人さんにまで心配されながら、自分の中での全速力で部屋へと急ぐ。
途中息切れで一回立ち止まって流れ落ちる汗を拭ったけど、すぐにまた駆け出した。



うちの学園は学区内だけはこじんまりと纏まっているけど、生活区の方は呆れるほどにだだっ広い。
大型図書館のあるちょっとした森林を抜け、寮の敷地内まで徒歩で15分ほど掛かる。

寮と学校は少し離れているから、ちょっとした通学路になっているんだけれど。
今日ほどその無駄に遠い通学距離が嫌になった日はなかった。


なんとか寮の一般棟に着いて、エレベーターに乗り込む。
エレベーターの中で乱れた呼吸を整えながら汗を拭いて、岳先輩に少し遅れることをメールで伝えた。
エレベーターが開いた瞬間にまた駆け出したけど、いつもより早く走ってるのに自室までの距離をいつもより遠く感じた。

「はあっ、はあっ。やっと着いた……」

それでもなんとか部屋の前まで辿り着いて、ポケットから取り出したセキュリティカードを所定の場所に差し込んだ。

Bkmする
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