俺様キューピッド
ぽっちゃりキューピッド
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朝のショート・ホームルームが終わり、一時限目の授業が始まった。
今の僕の耳に届くものは、先生が黒板を引っ掻くチョークの音とクラスメート達が板書を書き写すペンがノートの上を滑る音だけだ。
「いいかー、この問題は次のテストに出すぞー」
少し癖のある喋り方は英語のホリー先生独特のもので、全部日本語で喋っているのに、たまに英語のイントネーションが混じる。
ホリー先生は漢字にすると『堀井先生』で北海道出身の完全な日本人なんだけど、先生流のイントネーションのおかげで生徒の間でホリー先生と呼ばれている。
「んー、羽住」
「はい」
「前へ」
先生に名指しされたクラスメートが静かに立ち上がって、黒板に書かれた英語の穴埋めパズルの穴を英単語で埋め始めた。
授業をサボった春川くん。龍平も一緒にサボったかどうだかはわからないけど、きっと龍平も一緒にサボっているはずだ。
それから春川くんと龍平は恋人同士で、恋人たちが二人っきりですることと言えば、たった一つ。
『…しちゃった?』
不意に葉先輩に聞かれたその一言を思い出した。
恋愛初級者の僕に問い掛けられたその『しちゃった』は、その……、キ、キス。を意味するんだろうけど。
春川くんと龍平は僕らよりも長く付き合っている。
それから、龍平も春川くんも初めて付き合った相手はお互いじゃなく、それぞれにお付き合いの経験があるし。
恋愛経験がない僕も、この学校に来ていろいろ知ってしまった。
うちには女子生徒がいないから男同士の恋愛になるけど。
男同士といっても男女の恋愛と全く変わりはなくて、ただエッチするとなると抱く側と抱かれる側に分かれるだけだ。
しかも、なぜか抱きたいランキング1位の春川くんと抱かれたいランキング1位の龍平がくっついたように上手く分かれるから不思議なんだけど。
つまり、今頃二人は……。
「――っっ」
多分、僕が心配することじゃないんだと思う。
二人に限って喧嘩することなんかも有り得ないし、僕が出る幕じゃない。
そう考えた瞬間、ホリー先生の声が耳にぽんっと飛び込んできた。
いけないいけない。今は授業中だった。集中しなきゃ。
一時限目が終わっても、二時限目の授業が終わっても。
春川くんが教室に顔を出すことはなかった。
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