俺様キューピッド
ぽっちゃりキューピッド
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教室までの道すがらも以前みたくじろじろ見られることもなくなった。
嬉しいことに僕の存在を知ってくれた上で、みんな普通一般的な反応をしてくれる。
岳先輩に恋人宣言をされるまでの僕は空気みたいな存在で、恋人宣言されてしばらくはサーカスの見世物みたいな存在だった。
それが今は、ちゃんと一個人の『井上晴陽』として見てくれているんだと思うと嬉しくて仕方がない。
廊下を走っても僕の足が遅いからか、誰も注意してくる人はいない。
ばたばたと足音をたてながらなんとかぎりぎりで教室に入ったら、春川くんはまだ登校してなかった。
なんかあったのか、一瞬気になったけど龍平も一緒だろうから大丈夫だってすぐに思い直す。
それからすぐに本鈴が鳴って授業が始まったけど、とうとう春川くんは間に合わなかった。
…なにかあったのかな。
春川くんが授業をサボるなんて初めてのことだ。
昨日は普通に部屋で一緒だったし、キッチンの散らかりようから今朝、春川くんがキッチンを使ったのも間違いないし。
春川くんがキッチンを使ったってことは龍平のお弁当を用意したってことで、二人は一緒にいるってことになる。
「…あ」
「ん、井上。どうした?」
「あっ、いえ。なんでもないです。すみませんっ」
ふとある考えが脳裏に浮かんで、思わず声を漏らしてしまった。
春川くんが欠席してるのを気にしているのはどうやら僕だけのようで、授業はいつもと同じ、変わりなく進む。
僕は春川くんが龍平の所へ行った、つまりは登校しているのを知ってるから気になるだけで、他のみんなが気にするはずがないのは当たり前なんだけど。
龍平はとても生真面目な性格だけど、たまに気まぐれに授業をサボることがある。
そもそも龍平レベルの成績なら学校の授業よりも自習の方が学力も身につくだろうし、実際に成績がトップクラスの生徒の中には留年寸前の出席日数まで学校をサボり、部屋にこもって勉強してる人もいる。
まあ春川くんも一緒ってことは、龍平は勉強してるわけじゃないだろうけど……、
「…あ」
「ん?」
「…え、あ。ご、ごめんなさいっ!」
また、とある考えが思い浮かんで慌てて口を塞いだ。
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