俺様キューピッド
ぽっちゃりキューピッド
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新しい日々
朝、目が覚めて一番に、僕は自分の頬っぺたを抓(つね)ってみた。
「…いひゃい」
そしたら地味に痛くて、昨日のことが夢じゃなかったことを知る。
…と言うか、夢を見てたんじゃないかな。
自分に都合が良すぎる夢を。
そう思えるぐらい、昨日の出来事は本当に夢のような出来事だった。
夏休みの最終日。
僕は幼なじみの龍平に失恋をした。
だけどそれは本当の恋じゃなくって、その日のうちに仮初めの恋人ができる。
その恋人はちょっぴり俺様だけど優しくて、かっこよくて、その偽物の恋人が本物になったのが昨日のことだ。
「…キス……、しちゃった」
しかも、とびきり濃厚なやつを。
それも昨日の出来事だ。
仮初めの恋人だった岳先輩と昔遊んでたことやいろんなことを思い出して、気付けば先輩の唇が僕のに触れていた。
いま思い出しても顔が熱くなる。
きっといま僕の顔は真っ赤になっているんだろうな。
姉ちゃんに呼び出されて向かった土手に上がる石段の下、先輩を見つけた時は胸が跳ねた。
最初は軽く触れていた唇。
『…晴陽。あーって』
そう言われて素直にあーって口を開けたら、岳先輩の柔らかな舌が口の中に入って来た。
瞬間、びっくりしたけど不慣れな僕にはどうすることもできなかった。
先輩の舌が僕のに絡まるたび、唇が離れてまた触れるたび、ぴちゃぴちゃってなんとも言えない音がした。
角度を変えて何度もそうされてるうち、立っていられなくなった僕は先輩の暖かい胸にすがった。
キスがあんなにも気持ちいいものだなんて知らなかった。
多分、先輩はキスがとても上手くて、そして慣れているんだと思う。
僕は昨日のがファーストキスだったし、他の人とは比べようもないからよくわかんないけど。
だからと言って、先輩とキスした他の人に嫉妬するとかそんな気持ちはなくて。
ただ、先輩が僕を選んでくれたことが嬉しかった。
長い長いキスの後、改めて先輩が『好きだ』と言ってくれた。
それから恋人ごっこはやめにして、本物の恋人同士になろうとも。
僕は恥ずかしすぎて先輩に『好き』って言えなかったけれど、ちゃんとわかってくれたと思う。
その後にもキスをしてくれて、そのキスは前の以上に優しいものだったから。
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