俺様キューピッド
俺様キューピッド
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「え、えっと……」
どうしよう。
僕、会長から怒られるようなことなんかしたかな。
頭を撫でてくれる手は優しいし、とても暖かいんだけどなんかものすごい目で睨まれてる気が……。
「泣くな」
なのに、その大きな手と声は泣きたくなるぐらいに優しくて。
「あ、えと。大丈夫です。はい。泣いておりませんですから」
相変わらず緊張して、ぐだぐだになりながらも慌てて否定すると、
「ならこれはなんだ」
そう言って、指先で優しく涙を拭われた。
やばい、やばい、やばい。
これ以上優しくされたら絶対、本格的に泣いてしまう。
「あ、えと。雨です」
「雨?」
「あ。ほら」
なんとか雨のせいにしてごまかした瞬間、本当に雨が降り出した。
顔を軽く上げて見上げた頬に、雨粒がぽとりと落ちてくる。
会長はまた、しようがないなと呆れて笑うような表情(かお)をして、
「ここ。泥がついてる」
そう言いながら軽く僕の眼鏡を押し上げて、優しい指で目元を拭ってくれた。
とうとう降り出した雨に僕らは、花壇脇から中庭のテラス脇のベンチへと移動した。
本当は何故だかしっかりと繋がれた会長の大きな手を振りほどいて寮に逃げ帰りたかったけど、会長はしっかりと握った僕の手を離してはくれない。
「ほら」
「あ。ありがとうございます」
ようやく会長の手が離れたと思ったら、近くの自動販売機で買った苺オレの小さなパックを手渡された。
なんとなく会長は高価な紅茶や珈琲を飲んでるイメージだったから、案外庶民的で意外に思う。
パックにストローを突き刺して一口飲んだ瞬間、
「…で、なんで泣いていた?」
「ぶっ!」
会長にまたそんなことを聞かれて、思わず苺を吹き出した。
「…泣いてません。雨です」
「ほほう、そうか。…で、なんで泣いてた?」
「…………」
さっきから何度もそう言ってベンチから立ち上がって逃げようとするけど、そのたびに会長に腕を引かれてベンチに座らされることの繰り返し。
「で?」
どうやら会長はどうしても僕が泣いてた理由を知りたいらしく、このままでは帰してくれそうもない。
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