正直、最近すごく困ってる。
立向居とどう接したらいいのかわかんなくて。



「緑川!久しぶりー」

「あ、春奈。おはよ」

「はい、これこの前のお返しね」


二週間ぶりの代表練習で春奈から手渡されたのは、上手にロケットの形に折られた手紙。
二週間前あんなこと言われたからちょっと気恥ずかしかったけど、でもやっぱり嬉しい。
笑って受け取って、大事に鞄のポケットにしまった。
本人の前では読まないってのがルールだ。

「不動くんももう来てるよ。あっちで木暮くんと壁山くんと遊んでる。立向居はまだ来てないかな」

「……そう」


不動は誰よりも筆マメで、いつも綺麗な字で、手紙も聞いたこととかちゃんと答えてくれる。
立向居が不動も書けるなら俺も、とかって言ってたけど、あいつは絶対無理。
だって超気まぐれで飽き性だもん。

っていうか、ああ、そう。


「……立向居だよ」

「緑川?どうかした?」


急に俯いた俺を見て春奈が首を傾げる。
だけど答えることはできない。

……そうだよ、立向居と会わなきゃなんないんだよ。
この前逃げるみたいに帰っちゃったから、すっごい気まずいんだけど。


「呼んだ?」


急に背中にぶわって人の気配がして、それから必要以上に張り付かれた。
何回も頭の中で反芻した声だ。

それで今、一番聞きたくなかった。


「あ、立向居だ。おはよー」

「おはよ、春奈」


立向居が居ると、うまく動けなくなる。


「おはよう、緑川」


耳元で名前を呼ばれる。


「みんなもう来てるよ。立向居がビリ」

「だって一番遠いの俺だろ」

「はいはい。あっちに居るからね。私も先行ってるよ」

「俺も行くよ」


立向居が言ったのを聞いているのかいないのか、春奈は木陰の方にぴょんぴょん歩いて行ってしまった。
俺はまだ動けないまま。


「さて。緑川はみんなのとこ行かないの?」

「……あ、……うん」

「俺行くよ?」


そう言って立向居は離れて行った。
今度は背中がスースーする。


「……立向居」

「なに?」

「長旅、お疲れさま」


立向居は笑って右手を上げた。


「ありがとう」



立向居は、ずるい。
俺もわからない俺のことを、知ってるみたいな顔をする。

だけどほんとは気付いていないわけじゃない。
あんなに楽しかった立向居と居る時間が、最近どうしたらいいのかわからない時間になった理由とか。
動けなくなる理由とか。

知らんぷりする立向居がずるい。
俺にこれ以上どうしろって言うの。


ぐるぐるになった頭をどうにかするために、さっき貰った春奈の手紙を手探りで探した。
春奈のばかみたいな話読んだら頭すっきりするかもって思ったからだ。
そしたら、整理してきたはずのポケットには、なぜか手紙が二つ入っていた。
一つは春奈からのロケットの。
もう一つは、春奈の作るハートより、ちょっといびつなハート型。

ドキドキする指先で開いてみる。


『駅までいっしょに帰ろう。』


それだけ小さく書かれていた手紙。


「……ずるいだろぉ」


一人呟いた語尾はちっちゃく消えて行った。
こんなの、フェアじゃない。
せめて名前くらい書いてくれなきゃ、こんなの全然フェアじゃない。


へたりこみそうな足に力を込めて、それをもう一度、きれいにハート型に戻した。






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