※年齢操作で大学生








久しぶりに里帰りしたからと一之瀬くんから連絡があったので、僕らはファミレスで待ち合わせをして、一緒にランチをすることにした。
僕が店の前に着くと、一之瀬くんはすでに待っていて、大きいキャリーを隣に置いたまま相変わらずの笑顔で、やあ、と片手を上げた。



「僕はなんだか、君がその鞄を持ってるのをよく見る気がするよ」

「そう?久しぶりアフロディ」

「変わらないね、一之瀬くん」

「君は綺麗になったよね」


まったく、白々しいこと言うんだから。
まあ僕が言った変わらないっていうのも、よく考えたら白々しい。
一之瀬くんはいろいろと変わった。
とりあえず連れ立って、お安い価格が売りの、イタリアン仕様のファミレスへと入ることにする。





「……はあ。君、見た目に寄らず、よく食べるよね」

「そう?アメリカでは少食って言われるけど」

「見ているだけでお腹いっぱい。君のお友達はみんなびっくり人間なのかな」


見ているだけで胸やけがしてくる。
パスタとピザとサラダを並べてた一之瀬くんに辟易しつつ、ドリンクバーのアイスティーをストローでかき混ぜた。
この期に及んで、またメニューを開きながらエビを口に運ぶんだから呆れちゃう。


「あ。俺パフェも頼んでいい?」


小さくため息を吐いてから、どうぞ、と手のひらを差し出した。
ウエイトレスのお姉さんにクリームがたっぷり盛られたパフェを注文して、一之瀬くんは満足そうに笑う。


「そうそう、最近どう?不動とは仲良くやってるの?」


お皿から顔を上げた一之瀬くんが、唐突にこんなことを聞いてきた。
僕と彼とはときどきメールをやりとりする仲で、彼は僕のそんな事情を知っている。
もちろん僕も、彼のことをたぶんいろいろ聞いている。


「うん。まあ、あきおくんは優しいしね」

「そっか。なら良かった」

「心配してたの?」

「一緒に住むって聞いて、ちょっと。だけど二人は意外と合うのかもね」


ファミレスのアイスティーはいがいがしてなくて、僕は喫茶店のあたたかいのより好きだ。
シロップを一つ分入れたそれで喉を潤して、今度は僕が聞く。


「君の方はどうなの?僕は彼のこと、テレビでしか観たことないけど」


一之瀬くんは少し迷ったような顔をして、お皿の上にかちゃんとフォークを置いた。


「んー……すごく優しい奴なんだ。それはまあ良いんだけど、ちょっと困ってるんだよね」

「どうして?」

「何て言うか、あの人は俺を女の子みたいに扱うんだ」


一之瀬くんがそう言うのを聞いて、僕はあきおくんのことを思い浮かべる。
あきおくんは、そういうことはしないよね?
たぶん。


「ほら、覚えてる?俺たちが中学二年だったときの世界大会」

「……懐かしいな」


僕にとってはあきおくんと初めて会った頃の話だ。

一之瀬くんは、サッカーでプロになるのを諦めた頃。


「あれ以来俺のこと、壊れモノみたいに思ってるんだと思う。日常生活なんか全然平気なのに」

「一之瀬くんのこと心配する、彼の気持ちもわかるけどね」

「そう?だって、ジェットコースターに乗っちゃだめだって言うんだよ?」


笑っちゃうよね、と笑う一之瀬くんの顔は、本当に楽しそうで。
たぶん彼は、いやなわけじゃなくて、くすぐったいだけなんだろうなと思う。
それで僕はよかったなと思う。


「いいんじゃない?甘やかしてくれるんだもの、甘えてれば」

「……まあね。でも買い物袋も自分で持たせてもらえないせいで、すっかり腕の筋肉が落ちちゃって」


トランクが重くて困ってるんだ、と悪戯っぽく言った一之瀬くんに、僕ははたと止まってしまった。


「……アフロディ?」

「……買い物袋を持ってくれるのは、」


……女の子扱いなの?
あきおくんはいつも何も言わずに自然に持っててくれるから、僕も当たり前に持ってもらっていたんだけれど。

言葉を出しあぐねていた僕に、一之瀬くんはくすくすと笑いを堪えて言った。


「不動は、君をさりげなく甘やかすのが死ぬほど上手いんだね?」

「……何だか急に、恥ずかしくなってきた」

「可愛いな、アフロディ」


悔しいから、帰ってあきおくんに文句を言ってやろう。
一瞬そう思ったけど、やっぱり優しいのは嬉しいから、言うのはやめにしよう。
そのかわり帰ったら、おでこにチューさせてもらおう。

あきおくんは嫌がるけど、あきおくんの肩に手を置いて、彼の鼻が僕の顎のあたりに触れるのがすごく好きなんだ。


「そういえば一之瀬くん、いつまでこっちに居るの?」


機会があれば、一度くらいあきおくんと三人でごはんを食べられたらいいな、と思ってそう聞いてみた。

そうしたら一之瀬くんは、今日一番彼らしい、何て言うか……少年っぽい……顔をして笑って。

僕はたまらなく嫌な予感がした。


「うーん。実は里帰りって言っても、俺日本には、田舎におじいちゃんたちが住んでるだけなんだよね」

「……まさか君」

「一週間くらい居て、会いたい友達もたくさん居るんだけど、あんまりお金もなくて」


大きなキャリーを持ったままなのはそういうことか。

図太いっていうか、意外とちゃっかりした人なのは気付いていたけれど。


「……あきおくん、何にも知らないんだけど?」

「大丈夫。俺、不動とは会うたび敵同士だったけど……仲良くなれると思うんだ」



それから、たぶんね、と歯を見せて笑う彼にため息を吐いて、僕はバイト中のあきおくんにメールを一通入れた。
ごめんね。

君がメールを開く頃には、時すでに遅し、だと思うけど。






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