※年齢操作で大学生








「あきおくん」

「んだよ」

「このお味噌汁おいしいね」


そう言って亜風炉はじっと茶碗の中を見つめると、突然二本の箸をその中に突っ込んでかき回す。
俺はそういう、行儀の悪いのが嫌いだ。


「あ。ほら、あった」

「汚ぇからやめろ」

「うん。ねえ、このすごく小さい魚は何?」


だし用のじゃこを器用に箸の上にのせて、亜風炉はそれを俺の目の前にぐいっと差し出した。


「……じゃこだよ」

「じゃこって、しらす?」


呆れた。
小綺麗な顔して、食べ方の汚さはいつまでたっても直らない。
こくりと頷いてやる。


「干からびるとこんなになるんだ」

「そういうふうに干してんだよ」

「驚いた。僕は白いのしか食べたことないよ」


それからそれをひょいっと口にして、考えるように飲み込んで、あんまり味がしないと首を傾げた。
そりゃあ、だし用だからな。
言ってやらずに味噌汁をすすった。


「ねえねえ、今日の授業が終わったら、一緒に映画に行こうよ」

「無理。バイト」

「今日までなんだって」

「無理だって。他のやつと行けよ」


またさっさと話題を変えて、亜風炉は実に勝手に話を進める。
無理なものは無理だから、と突き放せば、拗ねたように頬を膨らまして、箸の先で俺を指差した。


「君は僕に、君以外の人とラブロマンスを見に行けと言うの?」

「……ラブロマンスは観に行かないし、どっちみち行けないって言ってんだろ」


じゃあいいよ、とより一層機嫌を悪くすると、亜風炉はそれからは、黙って食事に集中した。
ごはん茶碗を左手に持って、背筋がぴんと伸びて、伏せ目気味に、右手で小さい一口分運ぶ。

……あ、今。


「……なあ」

「なあに?今更」

「あんた、何回言っても行儀悪いの直らないけど、箸の持ち方だけは綺麗だよな」


何でもない見たままを報告したわけだが、というか大体、半分はけなしているわけなんだが。
予想に反して文句を返すことはなく、亜風炉は何故かガタガタと乱暴な音を立てて、茶碗と箸を取り落とした。
茶碗はそのままテーブルの上を転がって、床に落ちて、ガチャンと嫌な音を立てる。


「あーあー……何やってんだよ」

「ごめ、っ」

「ほら触んな、指切るから」


たぶんろくに割れた食器も片付けられないであろう亜風炉のために、しゃがみかけた奴をとめて席を立つ。
亜風炉の側に回って、見事に真っ二つに割れた茶碗を拾い上げた。
そこでふと、見上げた先に俯いた亜風炉の顔が目に入る。


「……あんた、何て顔してんの?」


真っ白なはずの顔が、目玉の色みたいに真っ赤に染まっていた。
……あんたそんなキャラじゃないだろ?


「……だって!」

「お、おう」

「きき、君、そんなこと言うキャラじゃないじゃない……っ」


……ああ、なるほど。
自分の言動を振り返って思い当たった。
まあ確かにあんなのは、無意識じゃなきゃ言わねえな。
俺が隣で立ち上がっても相変わらず亜風炉はぐっと下を向いたままで、見れば髪がわかれて見えたうなじまで、真っ赤に染まっていた。
あー、もう。


「……しょうがねえな。付き合ってやるよ」

「……え?」

「……映画。そのかわり、九時まで待てよ。あとラブロマンスは見ない」

「う、うん」

「それと、待ってる間に新しい茶碗買っとけよ」


はい、と小さく頷いて、亜風炉がゆっくりと、少しだけ赤みの引いた顔を上げた。


「……あ、あきおくんもちょっと顔、赤いよ?」

「……うるせぇよ」

「ひゃ、ひゃあっ」


だから生意気言う亜風炉の頭をもう一度無理矢理俯かせて、熱を持ったうなじにキスしてやった。
映画はスプラッタホラーにしてやるよ、ざまあみろ。




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