ありがとうございました!


(立緑+基)
※お礼は一種です





「あれ。リュウジ、今からお風呂?」


一日の練習の汗をさっぱり流して、長風呂派の僕がお風呂から出る頃には、大浴場の中にはたいてい他には誰も居ない。
だけど今日は扉を開けたところで、ちょうどシャツのボタンを外そうとするリュウジと鉢合わせた。


「あれ、ヒロトだ。もう誰もいないかと思った」

「うん……リュウジ、遅かったね?」

「うん、ちょっとね。やばいなあ、急いで入んなきゃ消灯になっちゃう」


ちょっと、ね。
以前ならリュウジが僕に対して、こんなふうに言葉を濁すことはなかったんだけど。
一番風呂好きのリュウジが、ここ最近、ごはんの後どこで油を売ってるかなんて、もちろんお見通しだ。


「今日も、立向居くんと?」

「へ?ヒロト、知ってたの?」

「うん。最近、随分仲良しだなあって思ってたんだけど」


どうやら同い年の立向居くんと、二人でずっとおしゃべりしているみたいで。
そう問いかければ、リュウジは服を脱ぐ手をとめて、僕の心中なんてまったく察することなく満面の笑みを浮かべる。


「あいつと話すの楽しくてさあ。いつも時間忘れちゃうんだよね」

「……そう」


よかったね、なんてこちらも笑ってあげると、リュウジは嬉しそうにまた手を動かしはじめた。
ほんとは、何がよかったのって笑顔なんだけどね。
ニブチンのリュウジは何にも気付かない。
可愛いけれど、困った子だよね。


「……ん?」


リュウジが上半身裸になったところで、ふと、リュウジの健康的に焼けた肌の、首筋あたりが目に入る。
ふつふつと煮えるものを感じながら、だけど至極冷静に、笑顔を浮かべたままでリュウジに聞いた。


「……リュウジ。これ、なあに?」

「へ?どれ?」


一見、虫刺されみたいに見える赤いあと。
ピンポイントに指差すと、リュウジはそれを鏡で確かめて、本当に何だかわからないと言った顔をする。


「あれ、気付かなかった。なんだろ?痒くないけど……刺されたのかな」

「ちなみに、だけど」

「なに?ヒロト……ヘンな顔してどうしたの?」

「そのへん……立向居くんには、何かされたりしなかった?」


あくまで笑顔は絶やさない。
リュウジはそれからしばらく考えるような仕草をしたあと、不意に、思い出したようにいきなり頬を赤くした。


「あっ……」


……やっぱりか。


「なあに?変なことでもされた?」

「……変なこと、じゃないけど」

「うん。じゃあ、どんなこと?」


……なに、リュウジのその恥じらった乙女みたいな顔。
それから少し俯くと、どこか嬉しそうに、リュウジは僕の心に爆弾を落とした。


「……ちょっと痛い、ような……でも、くすぐったいっていう、か?……は、恥ずかしいこと、かも」

「……そう」


あのガキ、覚えとけよ?
なんて、あくまでリュウジの前では絶対に言わないけれど。


「リュウジ。ちょっとごめんね」

「えっ、ヒロ……ッ痛、ん……」


代わりに首筋の赤い点の少し下、リュウジの鎖骨あたりに、時間をかけて吸い付いた。
赤色が見事に増える。


「うん、綺麗についたね」

「びっくりしたぁ。どしたの?ヒロト」

「ううん、何でも。大丈夫?痛くなかった?」

「ちょっとだけ。もう平気だけどさ」


ならよかった。
そう笑いかけて、リュウジの頭を撫でてあげた。
リュウジは相変わらずさっぱりわからないと言った顔。


「……そうだ、リュウジ。じゃあ立向居くんも、お風呂は今から入るのかな?」

「あ、うん。多分そう」

「そっか。じゃあいつもみたいにカラスの行水しないで、今日はゆっくり待っててあげたら?」

「へ?……うん、よくわかんないけど、そうする」

「じゃあ、おやすみ」


ほんとに何もわかってないんだから、可愛くて仕方ないよね。
リュウジを浴場に送り出して、畳んであった服を着る。

それから脱衣所を出たあたりで、立向居くんとすれ違った。
僕は彼ににこやかにおやすみを言って、彼はぺこりと会釈をする。


……翌日、打って変わって、やけに鋭い眼光で睨みつけられたような気がするけど。
そんなことは、まったく、僕の知ったこっちゃないよね。


ついでに何か一言送っちゃる


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