コックリにお茶に誘われ、あたしと翡翠はこひなちゃんの屋敷へお邪魔することになった。

とても広い屋敷だと思っていたけれど、こひなちゃんはなんと屋敷に元々一人暮らしをしていたらしい。だから、というのはおかしいけどコックリや狸のおっさんがいても他に怖がる人がいないわけだ、と思った(ストーカー犬はあたし的にカウントしないことにする)。
お茶に誘ったコックリはそれはそれは旧友にでも再会したかのように嬉しそうに、本当に茶菓子を出してくれた。
……あたしの知ってる物の怪とは何もかもが違うけど、もうそこには触れないでおくことにした。翡翠は茶菓子を見て生き生きとした瞳になり、満足そうに出された茶菓子に手をつけながらコックリと狸のおっさんと思い出話をするかのように話していた。
コックリや狸のおっさんからあたしに質問やらが飛んでくる以外はあたしは思い出話についていけず、蚊帳の外だったためこひなちゃんと話をした。その時馬鹿狗から喧嘩を売られたことも、ここに記しておく。


「梓って一人暮らしなのか」

「そうだけど。でも翡翠がいるから実際は二人暮らし」

「ああ、そうか。…けど、寂しかったりしないのか?」

「……」


お茶を終えて帰ろうとなった時、ふとコックリにそう訊かれた。


「…別に」


ただ一言、そう返事した。



01.今どきの女の子



あれから約一ヶ月。いつでも遊びに来ていいとコックリに言われ―…正確にはこひなちゃんの家なので、本人に確認をした…あたしは空いた時間を市松家で過ごす日が出来ていた。
学校に登校している時間は翡翠とは別行動で、ぶらぶら暇潰しをするついでに市松家を覗きに行くと翡翠がお昼ご飯や茶菓子を目当てに屋敷に顔を出していることが発覚。あたしも屋敷にお邪魔することはあったけど、夕飯時になる前には必ず自分のアパートへとお暇させてもらっていた。
そんなある日のこと。おやつの時間にお邪魔して居間でうたた寝をしていた時、台所からコックリの叫び声が聞こえた。


「…何騒いでんの」

「這い寄る混沌の出現なのです」

「は?這い寄る混沌…?」

「なぜ俺に向ける!?」

「弱虫という名の虫ケラがいたのでつい」


ぎゃあぎゃあ騒ぐコックリにそう答えるこひなちゃんの手にはゴキジェットが握られている。…ああ、這い寄る混沌って…アレか。弱虫は毛虫と挟んで捨てると言うこひなちゃんは本当に毛虫を捕りに行こうとして、悲痛な叫びと共にコックリがそれを嫌がった。
物の怪が虫、確かにアレは苦手な人は多いだろうけど、それでも物の怪なのに相変わらず色々おかしい物の怪だなと思う。真顔でアレを始末するのは無理だと言い切り一人騒ぐコックリに溜息をついた。


「そんなわけでこひなさん、頼んだ」

「平気に見えますか?……怖くても、平気なフリをしてうまく表現できない女の子もいるのですよ」

「…こひなちゃん」

「こひなも怖いのか?」

「いえ全く」

「だろうと思った」


怖がっていたら人形としてはナンセンス、もうすでに動じているだろうし。コックリに二択で選べとやりとりをしている二人を尻目に、あたしはゴキジェットを手に取る。素早く逃げるアレに、ゴキジェットを向けながら忍び寄った。…後ろで介錯を頼むとか聞こえたけど。




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