「こひな!」
「梓!」


ドタバタとコックリと翡翠が居間へと二人そろって襖を慌ただしく開く。
馬鹿狗と信楽のおっさんとゲームで遊んでるこひなちゃんと、うたた寝をしていたあたしに二人は声を揃えてこう言った。


「「テスト勉強は!?」」


ゲームをしていたこひなちゃんは、そのままの姿勢で固まったまま動かない。あたしも大欠伸をしながらのっそりと起き上がり、こひなちゃんの体にまとわりつく馬鹿狗を見て思ったことを口にした。


「馬鹿狗、こひなちゃんに絡まる必要ないでしょ」

「テスト前にずいぶん余裕だな…」

「梓、テスト前なのですよね?」

「テ…スト…?」
「テスト?」

「初耳みたいな反応すんじゃねぇよ!」
「初耳みたいな顔をしない!」



03.目標、最低限クリア



コックリと翡翠、声を揃えてぎゃんぎゃんとうるさいなぁと、あたしは両手で両耳を塞ぐ。
テスト勉強なんてしなくても、最低限の点数を取ってクリア(卒業)できればいい。あたしが受験しようと思っている高校だって、いまの成績で十分合格できるはず。それは翡翠にだって伝えてあるのに、翡翠はせめて最低限学業に励みなさいと口うるさいのだ。
馬鹿狗に答えを教えてもらえばいいと言ったこひなちゃんの頭に、コックリの鉄槌が下る。…馬鹿狗がテストに役に立つとは思えないけど。


「梓、何度も言っていますが、せめて姿勢だけでも学業に励むようにですね…」

「はぁーい」

「言っているそばから寝ようとしない!」

「成績の善し悪しに人形は動じません。コックリさんの言葉で、目が覚めました」

(ダメな方に目覚めてしまった…!)

「そう、あるがまま、0点を受け入れませう」
「そうそう、勉強しなくても取れた点を受け入れましょー」

「いや勉強しろよ!」
「勉強なさい!」


…ダメだ、コックリと揃っているから翡翠のこういう時のオカンスイッチが、二倍になってる気がする。
っていうか、期末テストお知らせのプリント、さっきこっそりゴミ箱に捨てたはずなんだけど。まさかコックリと二人で見つけたっていうのかしら。市松家に捨てていけば、アパートに帰った時に見つからずに済むと思ったのに…早まったか。
こひなちゃんがコックリに捕まると、コックリはあたしとこひなちゃんを交互に見ながら思ったことを口にした。それに対し、翡翠がさらに思ったことを口にする。


「梓もこひなも、お前ら真面目そうに見えるのに不真面目すぎるぞ。ちゃんと勉強しろ」

「いえ、コックリ。梓は見たままのとおり、不真面目ですよ」

「ちょっと翡翠、聞こえてるわよ。確かに真面目じゃないけど」

「嫌だと思うのなら、勉強なさい」

「別に嫌だとは思わないから勉強しないけど」

「梓…」


怒りを帯びた翡翠の視線に口元をへの字に曲げて、あたしは手段は選んでられないと縁側の野外へと逃げ出す。
コックリはこひなちゃんの頭を捕まえて、みっちり三日間勉強すると大声で言っていたけど…あれどう見ても、…よね。


「あと三日間、みっちりテスト勉強だ!…………こひなじゃ…ない!?」

「いつから嬢ちゃんだと錯覚していた?」


こひなちゃんに化けた(化けたと言っても、あの大きさからしてこひなちゃんだと気付かない方がおかしい)信楽のおっさんにショックを受けているコックリ。
翡翠は野外に逃げ出したあたしを追いかけてきてるみたいだった。これは本当に手段を選んでられない、翡翠から何としても逃げて隠れないと。そう思いながらあたしは野外にある一つの小屋へと逃げ込もうと、した。


「何をしているのでございますか?」

「っ離せ、馬鹿狗!」

「人の小屋に勝手に侵入するなど…」

「アンタの小屋って中は霊力でデカくしてあるんでしょ!?ちょっとの間だけいーじゃん!」

「退魔師殿を私の部屋へ招き入れるなど、屈辱以外の何物でもございませんよ」

「っていうか下ろしなさいよ!」


屈んでいた腹部に腕を回され、宙ぶらりんに抱え込まれているあたしはジタバタと暴れまくる。暴れるあたしにビクともしない馬鹿狗が、余計に癪だった。翡翠の声が背後でしたと思ったら、この馬鹿狗、下ろせと言ったあたしをその場に、落とした。


「ぐえっ!」

「いやはや可愛げも色気もない声でございますね。潰れた蛙ですか貴女は。失敬、これでは潰れた蛙に失礼ですね」

「潰れた蛙以下だって言いたいわけ?」

「狗神、よくやりました!」

「!」

「…童子殿に褒められても嬉しくもなんともありませんよ」

「嫌よ、勉強なんてしないんだから〜!」

「入らないでい、た、だ、き、た、い!」


下ろされ…訂正、落とされたあたしはそれをいいことに、馬鹿狗の小屋へと入ろうとする。小屋へ入ろうとするあたしに、馬鹿狗は小屋を引っ張ってあたしを入れまいとした。




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