「…貴女という人は…いくら最近暖かくなったとは言え、そんなところでうたた寝などしようものなら風邪を引きますよ」
「いーじゃん、少し休憩するくらいー」
「はぁ…もう少し女子(おなご)なのですから体に気を遣ってください。あと、いつまで春休み気分でいるつもりですか?今日は授業がある日でしょう。此方の確認は私だけで十分だと言ったはずですよ」
「あー、はいはい。じゃあ翡翠に確認任せるー」
「そういう意味で言ったのではありません」
「おやすみー…」
「まったく…我が主はどうしてこうも…」
額に手をやって何やらぶつぶつといつもの如く小言を漏らし始めた護法童子に、瞼を閉じて完全に昼寝の態勢に入る。 春の心地良い気温とそよ風にうつらうつらと微睡みはじめた時、ある声と共に感じた気配に瞼を開いた。
「やはり一つ目の姿も見えないのです」
(…女の子の声、)
「一つ目にあえなくなってしまったのです」
「嬢ちゃん」
可愛らしい女の子の声と、男の人の声が聞こえて社裏からちらりと鳥居の方を覗き見た。そこには小学生だろうおかっぱ頭の女の子と、僧の格好をした男―…にみえる者がいた。 一つ目と聞こえるからに、あの女の子は視えるのだろうか?でもみえなくなったって言ってるし…。そう考えているとあたしと一緒に鳥居の方を隠れて見ていた翡翠がぽつりと呟いた。
「友達が見えなくなって悲しいのはわかるが、所詮アレは人とは相容れない存在だったんだ。そう気を落とすな」
「アレは…いえ、まさか」
「…?」
「悲しいのです。カップ麺のトッピングにしようと思ったのに残念です」
「さすがに食用はチャレンジャーすぎるぜ!」
え?トッピング?カップ麺の?一つ目を? ………あの女の子、人間…よね?まさか子鬼?そんな気配しないけど…隣の男はともかく。
女の子よりも、さっきから感じる気配に隣に立つ男に声をかけようと立ち上がったところで、鳥居の向こうの階段から声が聞こえあたしは現れたソレに目を疑った。
「おーい、こひな!なんだ、お参りしてるのか?」
「我が君!」
「コックリさん、狗神さんなのです」
「よぉ、狐。金貸してくんない?」
「顔合して早々にたかるな!このニート狸が!」
「!?」
階段を上りきり姿を現したのは白と黒。…ケモミミの生えた白の長髪をした和服男性と、黒のスーツを着たパッと見は男性…いや、二人とも人の姿をしているだけで気配からして物の怪、妖だ。 ……遠目から見たらコスプレしている男性三人に囲まれた小学生の女の子って感じ。呼ばれた名前のとおり、狐と狗と狸、か。それにしても、あんな三人に囲まれていて女の子は平気なんだろうか…。いくら低級霊とは言え物の怪は物の怪だ。 腰のバックから退魔の祓い札を取り出して三人の方へと札を投げる。
「「「!」」」
「顕げ「狐火!」
「二十重に織りませ」
あたしが投げた札は炎によって焼かれ、黒の痩身が反射的に取りだした拳銃から撃たれた弾丸は翡翠の護法によって弾かれた。 っていうか、物の怪がなんで拳銃なんか使ってんのよ!なに、最近の物の怪は現代っこなわけ!?
「い…きなり何投げてんだ!除霊されるかと思っただろ!?」
「人形は何事にも動じません」
「こひなに何か投げつけられたのかと思った…!」
「市松の背に隠れながら言うセリフなのでせうか?」
「我が主は怪異を祓おうとしただけですよ。やれやれ…まだ誰にも祓われずにいたのですか。悪運の強いことです」
「その声は…」
「翡翠、知り合いなの?」
「随分昔に少し縁がありまして」
肩を竦め呆れた表情をした翡翠を見たあと、なぜか小さな狐に化けてしまった狐は半泣きで女の子の後ろに隠れていた。
「除霊しようとしたんだから当たり前じゃない」
物の怪のくせに何言ってるんだ、と思ってあたしは腕を組んだ。
「お姉さん、はじめましてなのです。こちらはコックリさんです、こっちが狗神さん、そしてこっちが信楽のおじさんです。三人とも害のない物の怪なのです」
「…確かにはたから見たらただのコスプレ三人組よね。でもあなたが辛かったりはしないの?」
「誰がコスプレだ!」
「人形はコスプレした物の怪にも動じません。市松こひなは人形なのです」
「こひなぁ…!フォローじゃなくてトドメ!?」
「……」
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