「アレが苦手なんて、ホント変な物の怪」

「梓!?や、やってくれるのか!?」

「だってコックリがうるさいから」


アレに向かってゴキジェットを噴射する。当たり損ね何度も噴射。
女の子なら怖がったりするのが可愛いのかもしれないけど、あたしは別になんてことない。ていうか、苦手はあれどアレを怖がってきゃーきゃー逃げる女の子って今どきそんなにいるのかしら。


「あ、コックリの方に逃げた」

「うぎゃあああああ!!」

「市松を盾にしないでください」

「コックリちょっと退いて」

「こっちに来るなあああああ!!」

「相変わらずちょこまかと…!」

「ひぃいいいい!!」


そのあとドタバタとアレ―…這い寄る混沌を追いかけ攻防戦が小一時間ほど繰り広げられた。



「あれ、もうこんな時間だ」


時計の短針が夕食時を示しているのを見て、あたしはそろそろ帰ろうと腰を上げた。結局アレは逃がしてしまい、コックリは台所に入れないと床に両手をついたのだった。
何を騒いでいたのかと翡翠が居間から顔を出し、説明をすると「情けない」とコックリを呆れた目で見る。今夜の夕食が作れないと泣き言を言い出したコックリを見て、翡翠がこんなことを言い出した。


「梓、夕食を作ってあげてはいかがですか?貴女もアレは平気でしょう」

「えー…あたしアレのせいで疲れたから、このまま帰ろうと思ったんだけど」

「日頃いろいろお茶をいただいているのです、今夜くらい良いのでは?」

「えぇー…」

「た、頼んだぞ!梓!冷蔵庫の食材使っていいから!」


そう言い残して泣きながら居間へと走り去って行ったコックリを見て、あたしは顔を渋らせた。こひなちゃんは攻防戦の途中から騒ぐコックリに飽きたのか姿がない。翡翠は帰るつもりがないのか居間へとにこにこしながら歩いて行った。
正直、アレを追いかけ回ったせいで疲れてる。アパートに帰ってインスタント食品で夕食を済ませようと思っていたのに、これではそもそも帰ることもできない。体力というより気力が疲弊しているけど、作るしかないのかと台所へ戻る。冷蔵庫を開けて食材を一通り見たあと、一度閉じる。


「めんどくさー…」


ぐったりと両手を垂れ大きく溜息をつきながら本音が漏れた。台所をぼんやり眺めどうしようかと考えていると、ふと視界に入ったものに目をとめた。





「ん?コレが夕飯か?夕飯がインスタントなんて珍しいな」

「……梓、私は料理を作ってあげては、と言いましたが…」

「あたし疲れてんの。いーじゃん、食べれないよりマシでしょ?お湯沸かして三分待てばいいだけだし」

「市松はカップ麺!市松にとってはこれが最高のディナーです」

「嗚呼…梓はどうしてこう……インスタントなんて、大嫌いです…!」


食べることが好きな翡翠はぶるぶると震えながら忌々しそうに目の前に置かれたカップ麺を睨んでいる。そもそも護法童子は食べなくてもいいのに。それでも食べることが好きな翡翠がインスタントを嫌ったのは、主にあたしが原因なのだ。



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