「ごめん剣城くん。俺お別れを言いに来たんだ」

 まず俺は「は?」と言った。そりゃそうだろ、突然家に来るなりお別れを言いに来ましたなんて言われたんだぞ。目の前の狩屋は玄関で俯いて足を微かに震わせている。いつもの狩屋からは遠いその様子に「とりあえず、上がれ」と声をかけるが本人はふるふると頭を横に振ってまた俯くだけだった。

「どうしたんだよ」
「あのね、剣城くん、俺な、」

死んじゃうかもしれないんだ



 俺はまた「は?」と言った。死ぬ?誰が?狩屋が?冗談だろ。昨日だっていつもみたいにサッカーしてたんだ。つうか狩屋がそんな簡単に死んでたまるか笑えねえ冗談は俺を殺してからにしろ100年早い「……血が」え何、「血が止まらないんだ」


 血が止まらないだと?上から下までを凝視してみても狩屋は至って普段通り、まして血が出ている箇所なんか見当たらない。見当たったらそれはそれで大問題だがいや今はそこじゃない。まさか、吐血するのだろうか。一気に不安になった。最初にふっと浮かんだ単語は白血病。いやまさか。狩屋が白血病になんてなるわけがないだろバカじゃねえの俺だまれよ俺。
 痛む眉間を指で揉みながら「血が止まらないって、どういう…」と濁して問いかけると狩屋が顔を上げた。今にも泣きそうな表情に俺まで泣きそうだ。


「…こ…ここから……」

 ぶっ倒れるんじゃないかというほどに真っ赤で目に涙を滲ませて狩屋が曖昧に示した場所は狩屋の足の、付け根。男にあって女にはないものがある場所

つまりそういうことだった。


「…狩屋」
「どうしよう俺病気なのかな……腹痛いしふらふらするし、…からだもだるくて…ねえ剣城くん、俺死ぬの?……」

 狩屋がとうとう泣き出した。俺も泣きそうだ。気づいてしまった。ああ狩屋はなぜ家の人に伝えなかったんだ。きっとこいつのことだから余計な負担かけたくないとか心配増やしたくないとかそういう理由なのだろう。つくづく彼女という人間を思い知らされる。


「…やだ俺まだしにたくない……しにたくない……」
「狩屋」
「だって、だってまだ剣城くんと……」
「狩屋、おめでとう」
「剣城くんとまだ……え?」
「赤飯炊こうな」
「え?…」

 泣き腫らした目をぱちぱちと開け閉じし意味が分からないという顔をされた。まさか俺がこの台詞を言うことになるなんて思わなかったし思いたくなかったけど狩屋の初めてに立ち合えたというかなんというか心のどこかでうれしい、と感じてる俺を誰か殴れよさあ早く!


「お前、生理が来たんだよ」


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