ねぇつるぎくんつるぎくんはどうして生きてるの。


首元に手を這わせて狩屋はそう問い掛けた。馬乗りにされてる身体が狩屋の重みに悲鳴を上げている。
どうして、と言われても答えようがなく、俺は狩屋に返す答えもそれに応答する手段も持ち合わせていなかった。狩屋の伸びたしなやかに長い爪が、骨張った首に食い込んでいる。か細い呼吸の中でもなんとか生きている俺は、しかし狩屋に抵抗などする気は起きなかった。緩やかに締まっていく気道は俺に死など微塵も感じさせることがなかった。


ねぇ教えてよつるぎくん


両手の、親指と人差し指の隙間で狩屋は俺を圧迫する。あ、苦しい。出血したのか爪の押し当たっている辺りも少々痛い。
ようやっと取り戻した痛覚で俺は実感した。あぁこいつは俺を、殺したいのか。
つるぎくん、と呼び掛ける狩屋の声が脳髄に響く。つるぎくん、俺はね。


俺はね、つるぎくんといると苦しくなるんだ。つるぎくんが俺の傍で、俺の隣で、呼吸してるだけでたまらなく苦しくなる。心臓のあたりがぎゅって締め付けられるんだ。つるぎくんにはわからないだろうけど、今のつるぎくんなんかより、俺の方がずっとずっと苦しかった。今だって、苦しい。息が出来なくて、苦しくて苦しくくて。ねぇ、つるぎくん。苦しいんだ。つるぎくんがいる限り俺は苦しくなる。ねぇ、だから、



俺のために、しんでよ。つるぎくん



震える狩屋の指先が、ぶれて首の傷を広げる。今になって、ここまで言っておいて怖いのか。
馬鹿だな、口角だけ上げて俺がわらうと狩屋の顔がぐしゃぐしゃに歪んだ。なんだ、本当に怖いのか?馬鹿だな本当に馬鹿だよお前は。大体お前の理屈だってめちゃくちゃなんだよ、殺すしかないみたいな言い方しやがって、ふざけんな。苦しいなら苦しいって、言ってくれたらこんな、まどろっこしいことすんじゃねぇよ馬鹿



そう思ったから俺は、ありったけの力を振り絞って狩屋の制服の襟を思い切り引っ張ってやった。同時にバランスの崩れた身体が俺の上に降り掛かり、気道が確保されたが俺は息を吸わず逆に合わさった唇から、口内に残る僅かな酸素と二酸化炭素を全て余すことなく狩屋に注ぎ込んだ。ぐらりと脳が揺れた気がしたが構わない、肝心なことならぼやけた頭でもきちんと言えるよう俺は身体にプログラミングしているのだ。目を見開いたまま硬直している狩屋に俺はまた、わらった。


「人、工、呼吸、だ」
「つるぎ、く」
「苦しい、なら、俺の息でも吸っとけ、」


馬鹿、と言いたいとこだったがもう限界だった。いよいよ酸素不足で床に頭を押し付けて過呼吸かと思うくらいに浅く速い呼吸、死なないだろうけど心臓がやたらと音を立てて鳴り響くのがうるさかった。仰向けに寝そべっている俺にそっと狩屋は覆い被さる。両手の絡める先は首元ではなく俺の指先。繋いだ手は温かかった。


「………つるぎくん、」
「あ?」
「…………生きてる、ね」
「……あぁ」
「…………ごめんね」



ありがとう。



まだどくどくとうるさい胸元に顔を押し付けて狩屋は黙って涙を流した。感謝する必要はないと思ったが俺はあえて言わなかった。
彼には言わないが、狩屋が安らかに生きることで俺もまた、安らかに生きることが出来ているのだ。



【緩やかな生】

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「mjkt」のあむへ、首絞め京マサをたまたま書いていたらまさかついったで全く同じネタを彼女が呟いていたなんて運命感じましたまったく。馬乗りになって首を絞めている狩屋とか完全一致すぎて笑った
こんなんでよかったらもらってやってくださいね、大好きですぎゅっぎゅっ


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