名は体を表すって言うけど、彼ほどその言葉が似合う人間は初めてだった。太陽みたいだ、なんて。



「狩屋!」

病室に顔を出せば彼は本当に嬉しそうに顔を綻ばせた。狭い病室のカーテン越しでは真っ直ぐに太陽光は当たらないが、彼の笑顔のお陰で部屋は自然と明るく見えた。
それに頬を緩めつつ、適当に持ってきた菓子を傍に置いて椅子に腰掛ける。今日の練習はどうだったの、こないだの試合凄かったね、次々と零れる彼の言葉を適当にあしらって菓子を開く。今日の見舞品は苺のチョコレート、狩屋の好きな駄菓子だ。

「ありがと。こうゆうの、自分じゃ買えないから嬉しいよ」
「大したものじゃないよ、ただの駄菓子だし」
「ううん、嬉しい。ありがとう狩屋」

笑う彼になんとなく気恥ずかしくて、狩屋は目を逸らした。眩しい、と思うのはこんな時だ。直視出来ないのだ、狩屋には。その笑顔は。
それからは菓子をつまみながら、今日の練習の内容や試合の細かな展開や流れを彼と談話した。とは言っても狩屋は同級生の松風や西園、空野と違ってそういった話をするのは得意ではなく、また練習の全体を見れているわけでもないので偏った、纏まりのない拙い話だったがそれでも彼は所々相槌を挟み、楽しそうに聞いてくれた。
いつだって彼は眩しいくらい満面の笑顔で。いつも張り付いた笑顔ばかり作っている狩屋は内心とても不思議に思っていた。

「……こんなの聞いて本当に楽しいの?」

つい、何度も聞いたことを今日も尋ねてしまう。我ながらしつこいし、怒られ咎められても仕方ないと狩屋も思うのだが、この質問にも彼はわらって答えてくれる。それもまた、いつも同じ回答で。

「楽しいよ、あの雷門の練習や試合の話が実際に選手を通して聞けるんだから。それにさ、」

それでも狩屋は何度もその質問を彼に繰り返し訊いてしまう。それは彼の、次に続く言葉が、狩屋には不思議でたまらないからだ。


「俺は外に出れないから。脱走したってこの格好じゃ、病院の領地からは出れないからね。でもテレビに映ってたり、雑誌に載ってる世界は俺にとって遠い遠い場所で起きてることで、実感なんてはとんど湧かないし親近感も持てない。だから俺には、狩屋から聞く話が一番身近で、一番手の届きそうな"外の世界"なんだ。狩屋は俺にとっての"外の世界"なんだよ」


だから、楽しいよ。そう言って微笑む彼の笑顔は、誰より晴れ晴れしく明るく輝いていて。
狩屋には、わからない。自分は大好きなサッカーが出来ないのに、大好きな学校の大好きなサッカーの話を、こんな話下手な奴から聞いて何が楽しいのか。自分みたいな人間といて何故彼はこんなにも笑顔でいてくれるのか。
しかしその疑問は全て胸中に塞ぎ込んで、狩屋は不器用にわらう。嘘でない笑顔は、狩屋にはまだ得意ではない。



狭い病室のカーテン越しでは真っ直ぐに太陽光は当たらない。しかし部屋は明るく、狩屋の胸は熱く泣きたくなるほどの温かさを伝えてくる。
眩しくて温かで、近付くと熱くて焼き尽くされそうで、でも傍にいたくて。このままでは焼かれて死んでしまうかもしれない、そう思いながらも、彼に焦がれて堕ちていくのを、止めることなど出来なかった。



【イカロス】


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ついったであむちゃんに焚き付けられ雨マサ美味しいと思いました
ワタクシとても乗りやすい人間です
タイトルはギリシア神話の人物から、結構まんまですすみません


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