綺麗だなあと思っている。


例えばよく笑うし直ぐにむくれた顔をするしつらい時はそう言って膝を抱える。
比べてヘソ曲がりのオレはそんな事出来やしないんだ。ガキっぽいとか恥ずかしい奴だなんて否定する言葉を投げつけておきながら、それでも心の中では認めているのに。

感情のままに生きている雨宮くんは、綺麗だ。


オレは人を妬むのが得意だ。自分ですらこんなに性格悪くなっちゃったのはどうしてかなあと情けなくなる時もあるけど、それはまあ、雨宮くんが構わないんじゃないって言ったもんだからそう思う事にする。
それで、とにかく人を馬鹿にしたり騙したり妬んだり、マイナスの行動をとってしまうのが、オレ。

だから実を言うと、オレははじめ雨宮くんを妬みの対象として見ようとしていた。だって10年に1人とか、とんでもないし。同じ1年生でキャプテンマークぶら下げてたり、顔はイケメンだし、背高いし。
みみっちい事でもオレにはそれだけで妬みの対象にはなれるもんだから、ううん、やっぱオレとんでもない。
まあそれはさておき、それでも結局雨宮くんはオレの妬みの対象にはなり得なかった。

試合で対面した時には薄々分かっていたようなもんだけど、病院のベッドで目を閉じて静かに眠っている姿を見た時には、色んな感情が砕け散った。
そこで感じたもの。恥ずかしさと同情と他にも色々と、…それと?









綺麗だねと面と向かって言った事がある。

オレはどうしてか雨宮くんと一緒に居ると素直に口が開く。不思議な力に誘導されるみたいに、オレの思った本当の事しか口から外に出て行かなくなる。そしてそれが不服にも何とも思えない。ただオレの言葉に反応するあたたかな存在に、こんな生き物が居るなんてなあといっそ感心するくらいだ。

「え」

綺麗だと言ったその時雨宮くんはポカンと口を開いて目を瞬かせた。オレはその言葉にすら笑顔を見せるか(あるいは「僕は男だよ」とむくれるか)と思っていたから、その反応には少し驚いていた気がする。と言っても雨宮くんの前でのオレはやっぱり無条件で大人しくなるから、見つめていたまんま、心の中で驚いただけだったけれども。

雨宮くんはそれからどうしただろう。目を閉じて思い出すと、コマ送りみたいに流れていく記憶の映像に、どこかの映画のワンシーンのように感じていたのかもしれないと思った。

それから雨宮くんはじわじわと顔を赤くして、口をふるわせた。

「あ」

ひゅうと呑むような息の仕方に、心配になった。病人がそんなだと、誰でも怖くなってくる。
雨宮くん、と呼びかけたオレに、だけど彼は手をかざして首を左右に振った。

「あ、あれ?」

間の抜けた声に、あれ、はオレの方じゃないかと心の中で思っていた気がする。素直に褒めただけで呼吸困難起こされたと思っただろ、なんて。

けれど何も出来ないまま見つめていたら、雨宮くんは赤い顔ではくはくと息を吸いながら言った。

「ちが、違うんだ、ありがとうって…言おうと、思ったら」

かわいそうで見てられなくて、背中を撫でてやる。雨宮くんはきゅっと口を閉じてから、それから、―――――それから、泣き出しそうに潤んだ目をして言ったんだ。

「すごく、嬉しくて」

でも恥ずかしくって。
さいごに少し、目を細めて微笑んだから、その頬にさらりと一筋涙がとおっていった。

焼き付いて離れなくて、こんなに綺麗な人間って居るんだなあって、見惚れた瞬間。









「狩屋」

声が聞こえて目を開けると、雨宮くんの鮮やかな色をした髪の毛が目に入る。病室の窓から射す光で雨宮くんのオレンジの髪がきらきらとしているのが眩しくて、少し目を細めた。

「眠ってた?」
「ううん」
「そっか」

にこにこと笑う彼を見つめる。








綺麗なものなんてオレには何一つないような気がして、だからずっと真っ直ぐなものとか綺麗事とか、そういうものを馬鹿にして生きていくつもりだった。

そんなオレが、どうしてか守りたいとすら思うようになるんだから。
あんまりに綺麗なもんだから、ねえ、雨宮くん。

「綺麗だね」
「…だから、狩屋は僕をどうしたいのさ」
「どうって」

そうだなあ、なんて呟くと、大真面目な顔をして雨宮くんはうんと頷いた。

そうだなあ。
オレのものにはしたくないな。だってこんなに綺麗なのは自由だからだ。オレが縛っちゃ駄目だな。
そもそもオレはどうして雨宮くんの所に来るんだろうか。病院って落ち着かないし居心地悪いし嫌いなんだけどな。

ウンウンと唸り出したオレに、雨宮くんはついには吹き出して笑った。
目を細めて、さらさら髪を揺らして、本当に楽しそうに、本当に、――――幸せそうに。

「…ああ」
「え?」
「オレ、たぶん」

――――きみのこと。

「ずっと笑わせていたい」

どうしようもなく、好きなんだ。









どうか一緒にいさせてね


(120505)
私に雨マサマサ雨の可能性を気付かせたあゆに押し付ける(真顔)


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