約束の時間より少し前に河川敷へ行くと見慣れた頭が元気よくボールを蹴っていた。

「天馬」
「豪炎寺さん!」

ぱたぱたとボールを抱きしめながら走る姿がなんだか危なっかしくて笑ってしまう。まだ約束の時間じゃないというのに準備万端でやる気充分な天馬はどこかあいつに似ている。ふわふわの焦げ茶色の頭を撫でると目を細めて嬉しそうに顔を綻ばす。かわいい。

「練習するか」
「はいっ!」
相変わらず元気な返事だ。こいつの蹴るボールも勢いがあって良いが同時に熱い思いも伝わってくる。サッカーを好きだという気持ち。

「少し休憩するか」
「まっまだ大丈夫、です、」
「息が上がっているだろう」

そう指摘すると「う…」と顔を逸らす。図星だな。「無理をするとかえって体に悪い」「はい…」しゅんとする姿もかわいい。

それから少し休憩を取ってまた練習を再開する。初めて天馬が俺に練習をつけてほしいと言ってからだいぶ上達した。俺も自分のサッカーの時間があるからあまり会うことは出来ないが、こいつは俺が言ったことを直し克服し更に練習してくる。本当に熱心で真っ直ぐなやつだ。天馬といるとなんだか昔に戻ったような気がして純粋にサッカーを楽しめる。俺が聖帝として支配していたサッカーとはまるで180度違う。それが何よりも嬉しい。
またこうして少年たちが思い思いにサッカーできる。

「…ご、豪炎寺さん」
「なんだ?」

自分から呼びかけておいて当の本人は顔を真っ赤にして「やっぱりなんでもないです!」と首をぶんぶん振った。変なやつ。

「天馬」今度は俺が呼びかけると天馬は「はいっ!」と上擦った声を出した。変なやつ。

「サッカーを取り戻してくれてありがとう」

最初はぽかんとしていた顔がみるみるうちに歪む。大きな目がゆらゆら揺れている。

「なんで泣くんだよ」

呆れ笑いで背中をさすると天馬は照れたような困ったような顔で笑った。



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