例えばこの世界に存在する全てのことが偽りで、偽りが全て真実だとする。そこで初めて俺たちは正当化されるのだ。

愛の形は人それぞれだと周りは言うけれど俺たちのそれはあまりにも不思議なものだった。
ある人間とまたある人間とそのまたある人間が一度に恋をしたらどうなるか。世間一般で言う三角関係に発展するパターンが多いだろう。だが俺たちは最初から三角関係などという甘ったるいあやふやな関係では収まらなかった。

俺は狩屋と雨宮が好きだ。

博愛主義というわけではない。ましてや二股なんかとんでもない。ただ俺は純粋に二人が好きなのだ。正直自分でもよく分かっていないし分かろうとも思わない。本当は恋愛感情じゃないのかもしれない。まあそれでもいいか。雨宮と狩屋が近くにいてくれるだけで他には何もいらないのだから。それはきっとあの二人も同じだと俺は思う。
…同じだったらいいのに。





「僕はさ、剣城のことも狩屋のことも好き。大好きだよ。だから二人に優劣なんかつけられない。比べようがないんだ。比べられる次元にいないんだよ。君もそうでしょ?ねえ剣城。それでいいんじゃないかな。これが僕たちのあるべき形なんだから。僕はこの関係が心地良いよ。狩屋と剣城と一緒にこうやってのんびり過ごしてる時間が一番落ち着くんだ。ずっとずっとこのままがいいな、なんて。狩屋はどう思ってるのか分からないけどね」

そこで言葉を切って雨宮は床に転がっているボールを軽く蹴った。ゆっくりコロコロと回りながらコツン、と壁に柔らかく当たりその反動でまたこちらへ向かってコロコロ。俺は雨宮の顔を見ていなかったからどういう表情をしているのか分からない。

狩屋もそう思ってるさ。なんて根拠のないことは軽々しく言えない。だが俺は雨宮の考えが聞けたことに満足していた。こいつも同じ想いだった。つい口角が上がりそうになるのを必死に抑えたが「何ニヤニヤしてんの〜」と言われてしまった。

「狩屋は雨宮太陽キチガイだから」

雨宮は笑って俺を見る。澄んだ水色の瞳に覗かれるとなんだか不思議な感覚になる。驚くほど綺麗なのだ、雨宮の眼は。曇りなどなくていつも真っ直ぐで。それがたまに嫌になったりすることもあるけれど雨宮のこういうところも好きだ。

「くだらないことなんて考えないでさ、いつも通りでいようよ。頭を空っぽにするんだ。なあんにも考えないで本能のままでいよう。僕は剣城も狩屋も好き。理由はそれだけじゃ足りないかな」

うん、もう、いいんじゃないか。雨宮と話しているとつまらん事で夜も眠れないほど悩んでいる自分がばかばかしくなる。いい影響を与えてくれる。もう考えるのはやめよう。耳を塞いで、目を閉じる。自分の理想を脳裏に描いてそれを追いかける。別にそれでもいいじゃないか。それが俺たちの幸せなんだ。



「あれっ剣城くん来てたんだ」
「狩屋!」
「ああ、まあな」

「誘ってくれたっていいだろ〜」とぶつくさ言いながらエナメルをベッドの端にどさりと置く。いつの間にベッドから抜け出したのか雨宮はすでに床に足の裏をつけて準備万端といった様子で狩屋がこちらに振り向くのとほぼ同時にその首に抱きついた。蛙の潰れたような声が聴こえた気がしたがこれがいつもの光景である以上これが当たり前。軽く絞められている狩屋を雨宮ごと包み込むように抱き締めるとぽかんとしたアホ面と目が合った。

「ちょっ、どうしちゃったんだよ二人して、苦しい暑い!」

とか言いつつ嬉しそうな顔してんじゃねえよばかりや全部見えてんだよ。髪をわしゃわしゃと掻き回すと「うぜえ」なんて単語が聞こえてきたものだからありったけの力を込めてでこぴんすると脛を蹴られてしまった。
かなり痛かったけど雨宮は楽しそうに笑ってるしつられたのか狩屋も涙目で笑ってるし、ああこれ、これだ、俺がこの世で一番好きで大切な光景。守り続けたい空間。


「俺って病院大っ嫌いなんだけど最近ちょっとは好きになってきたかもしんね」
「えっそれってさー」
「言わせねーよ!」

どうしてだろう。嬉しいのに、楽しいのに、幸せなのに、涙が出てくるんだ。







































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