誰もいない公園はいつもより広く見えた。片隅にぽつんと置かれたブランコに腰かけてゆらゆらと漕ぐ。じっとしていると涙がこぼれてしまいそうだった。

剣城くんと喧嘩した。それはもうくだらない理由で。今思い返せば本当バカみたいな原因なんだけど結構派手に言い合いして軽く殴り合ったりもした。
剣城くんの怒鳴り声なんて久し振りに聴いたし俺もたくさんきたない言葉吐いたし、殴られて痛かったし俺も同じことしたし。

「剣城くんなんか大嫌いだ!」
どうしてあんなこと言ってしまったんだろう。
俺は死ねばいいと思う。今までたくさん剣城くんは俺を助けてくれたじゃないか。優しくしてくれたじゃないか構ってくれたじゃないか慰めてくれたじゃないか笑いかけてくれたじゃないか撫でてくれたじゃないか、導いてくれたじゃないか。
それなのに俺はあいつに頼ってばっかりで甘えてばっかりで、俺なんかさっさと死んでしまえばいい。剣城くんに迷惑かけることしかできないくせに何が「大嫌い」だ。俺は俺のほうがもっと大嫌いだ。
自分で家を飛び出したくせに本当はどこかで期待してる。もしかしたら剣城くんは俺を追いかけてきてくれるんじゃないかって。甘ったれるのもいい加減にしろよ、そんなわけないだろ。
きっともう愛想を尽かされてしまった。俺のアホらしいわがままに付き合いきれないって離れていってしまう。剣城くんがいなくなってしまう。嫌だ嫌だ嫌だそんなの絶対嫌だ。まだありがとうもごめんなさいも大好きも全然伝えられていない。全然足りない。剣城くん、剣城くんの優しさに漬け込んで甘えてばっかりでごめんなさい。いつも隣にいてくれてありがとう。俺にたくさん愛を教えてくれてありがとう。

いつの間にか揺れが止まったブランコの持ち手を握りしめて俺は声を上げて泣いていた。足元にぽたぽたと丸い染みができる。視界がかすんでぼやけて息も苦しくてどうしようもなく寂しくて寂しくて寂しくて。
俺こんなんでごめんなさい。お願いだから神様、どうか俺から剣城くんを奪わないでください。俺もっと頑張るから、きっと立派な人間になってみせるから、だからお願い

「狩屋」

こんなちっぽけな俺でも、大好きな大好きな剣城くんの隣にいることを許してください。

「遅くなってごめんな」

背中から俺のよく知っているぬくもりが伝わってくる。あったかくて優しくて安心できる、俺の唯一の居場所。
涙腺のストッパーなんてもうとっくの昔に外れていた。

「一緒に帰ろう」



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -