「おはようございます」と言えば「おはよう」と返してくれる。「さようなら」と言えば「じゃあな」と返してくれる。ちょこっとだけ微笑んで。別に私だけにじゃなくてみんなにそうなのだけどそれでも嬉しかった。先輩が私に挨拶を返してくれるのが何よりも嬉しかった。

「なあ空野、明日のメニューのことなんだけど」

先輩が私に尋ねてきてくれた日なんか嬉しくて嬉しくて思わずそれを顔に出しちゃって「なんでそんなに笑ってんだよ」ってあきれ顔されちゃうこともあった。「なんでもありませんー」「なんでもないわけないだろ?このこの」肘でこめかみをぐりぐり。ちょっと痛いけどこんな痛みならむしろ大歓迎!先輩はスキンシップをたくさんとってくれる。この間冗談半分でお願いしたらなんと髪をいじらせてくれた。三つ編みにして鏡を見せたら怒られちゃったけど。先輩かわいくて、私女の子だけど嫉妬しちゃった。先輩は男の人なのにね。

先輩は優しい分怒るとすごく怖い。でも理不尽に怒ったりしないしちゃんと説明もしてくれるから、結局のところ先輩は優しいのだ。優しすぎてたまに心配になるくらい。

他にも先輩のお話はたくさんある。からいものは好きだけどにがいものは苦手とか、幼稚園以来風邪をひいていないとか、つい最近隣のクラスの人に女子と間違えられて告白されたとか。先輩は私とたくさんお話してくれた。過去の話も未来の話も。

つまるところ私の大好きな先輩は強くてかっこよくて美しくて律儀で思いやりがあって優しくて真面目だけどノリがよくて頼りがいがのある私の最強で最高な自慢の先輩なのだ。
私は大好きな先輩のためなら何だって言うことを聞ける。

「空野、俺と付き合ってほしい」

夢見てるみたい。大好きな大好きな先輩が私のことを好きって言ってくれた。あの霧野先輩が。涙が勝手に溢れ出てくる私の顔を見てあたふたする先輩が愛しくて愛しくて愛しくて。

それからたくさんのことを経験した。一緒にいろんなところに行ったし、一線も越えた。先輩のキスは甘くて優しいから好き。先輩がしてくれるからかもしれないけど、それ以前に私は先輩からのキスしか知らない。

時間が経つにつれてもっともっと好きになっていく。頑張って同じ高校、同じ大学に行った。大学は県外だったからお互いのお父さんとお母さんにきちんと紹介して同じ家に住むことにした。いわゆる同居。同棲。なんだか夫婦みたいで幸せだった。先輩もそう思っててくれたかな。先輩は低血圧で朝が苦手。布団を剥ぎ取ると「寒い」って私のこと抱き込もうとする。先輩の腕の中はあったかいからついつい私まで眠くなってしまうからすぐに突き放さなきゃいけないのが残念。先輩早起きしてください。

先輩って実は料理上手だったりする。高校の調理実習で散々だったのが悔しくてこっそり練習していたらしい。こういうところも大好きだ。先輩が初めて作ってくれたオムライスはとてもおいしかったから忘れられない。誰かのために作ったのは私が初めてなんだって。神童キャプテンすら食べたことない先輩の手料理を一番最初に食べられるなんて私はなんという幸福者なのでしょう。こんな生活がこれからも続くといいなあ。この人とずっと一緒にいたい、と心の底から思ったの。

それから何年か経って、私は先輩の一年後に大学を卒業した。卒業式が終わってから少し後の話、先輩は綺麗な綺麗な指輪をくれた。

「結婚してください」

ああ、私、生きててよかった。この日ほどそう思ったことはない。いつかの時なんかとは比べ物にならないくらい私は泣いて泣いて泣いた。先輩は小さくはにかみながらぎゅうと力強く私を抱きしめて安堵したような溜め息を漏らす。先輩緊張してたの。そう言うと「うるさいバカ」って私の肩口に額を押し付けた。きっと今の先輩顔真っ赤だ。どうしようもなく幸せで幸せで、私霧野先輩に出会えて本当に良かった。あの日サッカー部に入って良かった。世界中の、この世の、宇宙のすべてにありがとう。

「霧野葵って素敵な名前だね」

今までも、そしてこれからも幸せになろうね蘭丸さん。



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