雨が降った。雨の日は嫌いだ。髪が余計に跳ねるし自分の心までじめじめしてくる気がするから。きっと思い出したくもないあの日のことが過ってしまうからなのだろうけど。
雨の日は嫌いだけど、別に雨自体は嫌いってわけじゃない。ざーざーとどしゃ降りの中わざと散歩に出たりすることもあった。傘なんか役に立たないし結局びしょ濡れになってよく瞳子さんに怒られたっけ。それにうるさい雨の音は色んなものを掻き消してくれる。さっきも言った、じめじめした心のもやもやとか。気のせいだろうけど。


「つまり狩屋くんは雨の日が好きってこと?」
「嫌いって今言ったろ」
「だって雨宮は狩屋くんを助けてくれるんだろ?」

コイツの言ってることはよく分からない。雨の日は俺から温もりを奪った。誰も信じたくなくなった。俺の居場所を取り上げた。
だから雨の日は嫌いだ。

「俺、おまえ嫌い」
「僕は好きだよ」
「なんで俺にかまうんだよ」
「じゃあ、なんで狩屋くんは僕に会いに来てくれるの?」

質問を質問で返すところとかむやみやたらに好きっていうところとか俺は雨宮太陽も嫌いだ。無駄に元気だし明るいし。人懐っこいし、非の打ち所が無いってこういう奴を言うんだろうな。それに比べて俺はどうせ真っ黒だ。

「知らね」
「でも来てくれるの嬉しいよ。狩屋くんともっとたくさん喋りたいからね」
「フーン」

準決勝の時、死にかけながらも俺たちに向かってくるコイツを見て正直頭がおかしいんだと思った。だってそうだろ、手術すれば自由にサッカー出来るようになるのにそこまで雷門に執着するなんて。でも実際に会って話して分かった。雨宮太陽は本当に誰よりもサッカーが好きでサッカーをやりたくてサッカーが大切なんだ、って。そんな人間、俺には眩しくて、妬ましくて。嫌いだ。

「雨上がりと太陽くんって似てるな」
「そうかな」
「うん」

しつこくてうざいところとか、と言うと雨宮太陽は大きな声で笑った。嫌味で言ったつもりだったのに。
半目で大爆笑するそいつを眺めているとやっと笑いが治まったのか目の淵を拭いながら「続けて」

「…雨が上がったら、太陽が出るだろ。太陽の光が水滴に反射して、周りはきらきらする」
「うん」
「雲が晴れて、明るくなる」
「うん」
「じめじめしてたのがだんだん乾いてくる」
「うん」
「雨宮くんもそう。もやもやもやもやしてたのを簡単に取り去りやがる」
「うん」
「おまえが…大丈夫って言うと、そんな気がしてくる」
「うん」
「天馬くんも言ってた。雨宮くんがいると周りがきらきらする」
「うん」
「そういうのすっげむかつく」
「そっか」

やっぱり雨宮太陽はにこにこにこにこしていた。なんなんだよ。人間として、と言うか同じ歳なのに雨宮太陽のほうが俺より何年も何歳も上回っているように感じてしまう。普段はガキっぽくて子供なのにこういうところではふと大人っぽく見える。

「でもね」俺の前髪を触りながら雨宮太陽が小さく呟いた。変だな、さっきまでにこにこしていたのにその顔はどこか悲しそうだ。

「僕だってそんなにきれいな人間じゃないんだよ。本当は自由な身体がうらやましくて仕方ない。テレビで元気にサッカーしてる人たちを見て、心臓が欲しいって嫉妬する。病気はなんで僕を選んだんだろうって神様を恨んだし、憎んだ」
「………」
「狩屋。僕は君が思ってるような奴じゃない。醜くて汚くて、どっちかと言うと泥んこみたい奴なんだよ」
「………」
「僕は狩屋が好きだよ。裏も表も全部。だからさ、僕たちは似た者同士かもしれないね」


雨宮太陽はずるい。そうやって俺に手を差し伸べるんだ。それで俺がその手を取るとまた優しく「大丈夫だよ」って笑顔を向ける。


嫌いだ。

雨の日も、雨宮太陽も。





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