不意に病室の扉がノックされた。「はーい」と間延びした返事をしながら雨宮はガラッと音を立てて開いた扉の方向に視線を向けるや否や口に含んだばかりの麦茶を思いっきり吹き出した。

「げっほげほごほっ…雪村くん!?」
「きたねえな」
「いやこれ雪村くんのせいだからね、というかなんでここに」

 濡れた口元を拭いながら有り得ないという視線を眉間に皺を寄せる顔に浴びせる。雪村豹牙と言えば白恋中の白い悪魔と呼ばれるエースストライカーで白恋中と言えばこないだ雷門とホーリーロードで戦ったばかりだ。そもそも白恋は北海道の強豪校であるわけでなんでこんなところに雪村豹牙がいるのかが不思議で仕方ない。以上が計3秒間での雨宮の思考だ。

「別に、ちょっと顔が見たくなっただけだ」

 つかつかとこちらに歩いてきたかと思えばどかっとベッドの隅に腰かける。雨宮も布団から出て雪村の傍へ寄ろうとすると「病人は寝てろ」と肩を押し倒され身体を沈められてしまった。

「僕元気なんだけど」
「嘘つけ顔色悪い」
「色白なんだよ!雪村くんだって顔色悪いよ」
「俺は色白だからな」
「なんだよそれ」

 ぽつぽつとくだらないやりとりが続く。ふと窓の外に目をやると空がオレンジ色に染まり漏れた光が雨宮と雪村を薄く照らし出していた。楽しい時間というのは過ぎるのがどうも早くて困る。それは雪村にとっても同じだったようでさりげなく左手に触れてみるとぎゅっとその手を掴まれた。

「…雷門との試合、どうだった?」

「お前ってサッカーのことばっかだよな」雪村は小さく笑って窓に視線を戻し目を細めて続ける。

「俺たちに大切なことを思い出させてくれた。良いチームなんじゃないか」

 一言ひとことを噛み締める。当時を思い出しているのだろう雪村のゆったりな口調に自然と笑みがこぼれた。

「きっと雷門はこれからも勝ち上がるよね」
「戦ってみたい。って考えてるだろ」
「あは」
「笑いごとじゃねーよ」

 掴まれていた右手をぎゅううとつねられいたいいたい!と騒ぎ立てる雨宮を上から見つめる雪村の視線はやさしい。今のこの少年からは白い悪魔なんて感じられなかった。

「雪村くん」
「ん」
「僕が元気になったら、パンサーブリザード教えてください」
「おう。合体技とかも作るか」

だから、無茶とかしないでさっさと病気治せよ。



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