馬鹿は風邪ひかないと聞いていたんだがどうやら馬鹿が風邪をひいたようだ。
 剣城は今日学校を休んだという狩屋の元を部活が終わった後に訪ねていた。インターホンを押ししばらく待つと頬を赤く紅潮させ目を潤ませたつらそうな顔の狩屋が顔を出す。

「あ……」

喋るのも億劫なのか珍しい訪問客に言葉を失ったのか視線だけをゆらゆらさせぎこちない動作で剣城を中に入るよう促した。中からは何人かの小さい子供たちが楽しそうに遊ぶ声が聞こえる。

「ここ」

 ある一室の扉を開きながら絞り出すように呟く狩屋はひょっとして結構重症なのだろうか。座布団の上に座りながら剣城は「大丈夫か」と声をかけると狩屋は首を横に力なく振る。見るからにしんどそうだ。

「…なんでうち来たの?移りに来たの?」

 体調悪くても得意の皮肉はご健在なようで剣城は少し安心する。剣城の視線に居心地悪そうに体をもぞもぞさせ「…お茶持ってくる」と言う狩屋を引き留め隣に座らせ額に手をやる。熱は思ったよりなさそうだ。

「お前が風邪ひいたって聞いて心配したから来たんだろ」

そのまま頭を撫でながらしらっと先程の質問に答えた剣城のおかげで狩屋の頬は余計に染め上がってしまう。

「馬鹿じゃねーの…それを移りに来たっつーんだよ…」
「別に狩屋の風邪なら構わんけどな」
「馬鹿っ!」

 短く叫んだ途端に「ごほっ…げほ……うぇ」とむせ返る狩屋の背中をさする。

「病人のくせにでかい声出すんじゃねえよ」
「…っ、誰のせいだと…」
「俺」
「ぶふっ…ふふっ……も、なんなんだよ…あとマスクくらいしろ」

 体調が悪いと笑いのツボが浅くなるんだろうか。まだ地味に笑ってる狩屋をその場に押し倒してその上に跨がると笑っていた顔は一変し「つ、剣城くん…?」眉を潜め怪訝な顔に変わった。

 薄く開いた唇に自身のそれを被せる。狩屋が上手く抵抗できないのをいいことにこれでもかというほど口内を犯すと狩屋に胸を叩かれ素直に顔を離せばつり上がった目を更に鋭くさせて思いっきり睨まれた。

「…はあっ…はあ…何すんだよ…っ!」
「別に。それだけ喋れれば大丈夫だろ」
「はあ…?」

 首をひねる頭を無造作に一撫でし立ち上がる。「じゃあな」ポカンとしている狩屋を一瞥し剣城は背を向けお日さま園を後にした。




「……はあ」

 赤い頬に潤んだ瞳、熱い吐息。脳裏に押し倒したときの狩屋がはっきりと浮かぶ。
まさか病人に欲情するとは思わなかった。
 肩を下げ道を歩く剣城が今度は狩屋に看病される羽目になるのはまた別の話。





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くろみつさんへ



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