雷門対新雲戦。あの試合をきっかけに雨宮は病気のための手術を受けた。やっぱりサッカーがしたい。もっともっと高みを目指してみたい。その思いが雨宮の決心を固めた。そして無事手術が成功に終わり、退院したと同時に雨宮はもう一つ心に決めたことがあった。
 雷門への転校だ。


「太陽と一緒にサッカーが出来るんだ…!嬉しいよ!」

 天馬は雨宮の転校とサッカー部への入部を素直に喜んだ。それは他の部員も同じで、雨宮は持ち前の明るさと元気であっという間に雷門サッカー部に溶け込んだ。

(あ……)

入部初日の練習。元々サッカー経験者の雨宮は最初からみんなと同じメニューを行っていた。

 ふと視線を向けると思わず目を奪われる。そこには狩屋マサキの笑顔があった。
ホーリーロードでの準決勝、狩屋は鋭い目付きで試合に臨んでいたからか雨宮は狩屋のそんな表情は初めて見た。
自然な柔らかい笑みを浮かべている。心臓の音が勢いを増して加速するのが分かった。

一体何に向けてそのような表情を作っているんだろう。気になり視線をそこへ向けてから雨宮は後悔することになる。
 狩屋の目線の先にいたのは剣城だったのだ。


 狩屋と剣城の関係を知ってから早1ヶ月。雨宮は順調に雷門に馴染んでいるが、それと同時に狩屋の色んな面を知ってどんどん惹かれていってしまっていた。馬鹿みたいだ。自分で自分に呆れる。
 最初は諦めるつもりだった。狩屋が幸せならそれでいいや、って。でも心のどこかで嫌だ諦めたくないと泣き叫ぶ自分がいる。情けないことに、それが本心でもあった。

 もちろん剣城から狩屋を横取ろうとは思っていない。だが、この気持ちに区切りをつけるにはもうこの方法しか残っていないと感じた雨宮はある日の放課後、狩屋を呼び出した。


「僕、狩屋が好きだ」


正々堂々と。相手を真っ直ぐ見据えて。ありのままの気持ちを吐き出す。ただ一つの汚点と言えば、語尾が少し震えてしまったことだろうか。

 狩屋は黙って聞いていたがやがてぽつりと「ありがとう」と言った。「…ごめん。俺は…」しかしその先は雨宮が止めた。雨宮にとってはそれだけで十分な答えだったから。

「ありがとう狩屋」



 スッキリした。これだけでこんなに軽くなれるなんて僕も案外簡単だなあ。自嘲気味に小さく笑うと頬に冷たいものが伝う。

 いつだったか、こうして一人で泣いているところに天馬が現れたことがあった。ごまかす気にもなれず、正直に天馬に全て打ち明けた。天馬に何て言われるだろう、なんて考えずに。
だが、帰ってきた言葉はそんな雨宮を驚愕させた。

「…そっか。でも俺は太陽のことも応援してるよ。あの二人と同じくらい、太陽にも幸せになってほしいから。だからさ、当たって砕けなよ。自分の気持ちに嘘つかなかったよって、胸張れるようにさ」

そう言って、泣きじゃくる雨宮の背中をずっとさすっていたのだ。


「天馬、僕嘘つかなかったよ。言葉通り…見事に粉砕しちゃったけどね。でもさ、なんか明るい気持ちだよ」

 気づけば涙がこれでもかというほどに溢れ出ていた。けれど雨宮の心は正反対に晴れ晴れとしていた。
また一から頑張ろう。雨宮はそうして歩き出す。



「狩屋、おはよう!」



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