俺は自分の感情を伝えるのが下手だ。昔から周りにそう言われてきたし自分でもよく自覚している。口数は多い方ではない。顔に表すのも苦手。だから「何を考えているのか分からない」と俺のことを避けていく人間も少なくなかった。それでもいい。いつか、本当に俺のことを理解してくれる人と出逢えるはずだから。そうやって自分に言い聞かせて今まで生きてきた。

とうとう現れたその人の名前は水城光太郎。現在では親友から恋人まで発展した。出会ってから数え切れない程色々なことがあったけれど、その度に俺は水城に惹かれていったように思う。世界で一番大切な存在。だからこそ慎重にならなければならない。守りたい。幸せにしたい。その為には俺が強くならなければ。もっともっと強くならなければ。

水城が安心出来るように。
もう泣かなくていいように。



ある日水城と喧嘩をした。原因は俺だ。それは分かってる。焦る気持ちが先回りして本当に大切なことを見失っていた。水城を不安にさせてしまった。水城にずっと笑っていてほしかったから、水城の隣に堂々と立っていられる存在になりたかったから、俺の全部を懸けて守りたかったから。なのに水城を泣かせてしまったら終わりじゃないか。
生半可な態度じゃ伝わらない。着飾った言葉じゃ伝わらない。水城の気持ちを知っているくせに自分のことばかり考えて、恋人失格だ。

携帯を取り出して水城の番号に電話をかけると電波の向こうからくぐもった声が聴こえる。とにかく謝りたい。窒息するくらいに抱き締めたい。水城に会いたくて会いたくて仕方ない。



「…唯人、本当に分かってる?俺がお前を好きだって意味」

キーコ、キーコ、と誰もいない公園のブランコに腰掛けて音を立てながら水城が呟く。日も沈みかけた薄暗がりの下で見る水城の目は少し腫れていて心臓が縮むように痛んだ。

「俺はね、恋愛感情で唯人を好きなんだよ。愛してるんだよ。唯人と恋人らしいことをしたいんだよ。キスしたり抱き締めたり、それ以上のことだって、したいって思ってるんだよ」

「分かってるよ」

分かってる。俺だって同じだ。俺は水城が思っている以上にお前を好きなんだ。恋人として、お前が好きなんだ。

「ごめん、俺…」

言葉が出てこない。あんなに言いたいことたくさんあったのに。伝えたいことが山程あったのに。口内に少し鉄の味が広がり爪が掌に食い込む。


しばらくして沈黙を破ったのは水城の方だった。


「唯人ってさ、バカだよね」

「………」

「…もっと、もっとわがままになっていいのに。優しすぎるよ。バカみたいだよ」

そうだな、俺はバカだな。勝手に焦って勝手に落ち込んで。凄く遠回りをしてきてしまった。

「俺は唯人に救ってもらった。お前は、俺のヒーローだよ。だからそのままでいい。唯人のまんまでいいよ。ありのままのお前が俺は大好きなんだから」


微笑む水城が滲んでぼやけて歪む。頬に生暖かいものがぼろぼろ伝ってくる。涙を流したのなんかいつ振りだろうか。一度流れ始めたそれは止まることを知らず、掌で覆うとますます溢れてきた。ブランコの軋む音。水城の気配が近づいてきて温もりが広がる。普段とは逆に頭を撫でられ、背中をさすられる。それがあまりにも心地よかったものだから水城の肩に額を預けて背中に腕を回した。


「…水城」

「ん?」

「ごめんな。怒鳴ったことも、悪かった」

「なんで謝るんだよ。たまには俺に甘えてよ。いつもお世話になってるのはこっちなんだしさ」


「さみしいと思うのは、人生で一度でもさみしくない時があったからだ」いつかに読んだ本に書いてあった言葉。水城と喧嘩した後で一人になった時は消えてしまいそうなくらい寂しかった。誰かを好きになるというのは息苦しくて難しい。けどそれ以上に幸せだ。水城は俺にそれを教えてくれた。


「落ち着いた?」

「うん」

「はあ…唯人あったかい」


水城が隙間がないくらいにぴったりとくっついて俺の首筋に抱きつく。少し考えてから水城の肩を弱く押し顎を上げさせて、薄く開いた唇に自分のをゆっくりと重ねた。


「…大好き」

「ゆっ…ゆ、ゆい…」

「水城大好き」


慌てふためく水城をこれでもかというくらいに強く抱き締めると「ずるい!」という声が聞こえて思わず笑ってしまった。


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