後ろ姿を見ていると本当にこの人が男だということを忘れそうになる。まあ似たような性質を持つ身近な先輩もいるのだが彼は少し違うというか、本人がそれを意識しているのだ。周りがそれを感じ取らないわけがない。
「今日暑すぎませんか…俺溶けそうです…」
そんな彼もたまに男らしいところを見せることがある。それはもう、突然に。
「あーっもうあっつい!」
今日の練習が終わった後椅子に座ってタオルでぱたぱたと顔を扇いでいた先輩ががばっ!と効果音が付きそうな勢いでおもむろにユニフォームを脱ぎ出したのだ。あまりに唐突だったから目を逸らすのも塞ぐのも間に合わず結果的に先輩の何も着ていない上半身をガン見する形になってしまった。頭の中でカンカンカンカンと警報が鳴り響く。メーデーメーデーこれはまずい。
しかし現実とは無情なもので、目前に広がるのは女子よりやや筋肉のついているであろう細い腕、腰、そして真っ平な胸。
「…剣城?」
ああそうだ。馬鹿じゃないのか俺は。絶対に馬鹿だ馬鹿しかありえない。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
俺と同じ男だと、ちゃんと分かっていた。分かっていたはずなのに。
少しでも期待してしまった自分がとてつもなく滑稽で恥ずかしい。
「えっ…つつつ剣城なんで泣いてるんですか!?」
「や、ほんと、気にしないでください、雛乃さん」