下校時の習慣


「……黒子っち、いい?」

いつもと同じ帰り道。耳元で囁かれるのは、いつの間にか当たり前になった二人のルールだった。小さく頷いて、黄瀬の後に続いて公園に入る。ぽつんとある小さな公園は人気もあまりなく、子供の声もない。もう少し行ったところにある団地の中央に大きな公園ができたせいだ。おかげでこんなことができるんだけど、と黄瀬は密かに唇を舐めた。
公園の奥に設えられてあるトイレに入り、個室の鍵を閉める。二人で入るには狭い個室に無理やり入り、黒子の身体を抱きしめる。公衆トイレ独特の臭気に眉を顰める黒子を無視して、彼の学ランに手をかけた。

「ちょっと待ってください」

制服のジッパーに指を伸ばしたところで、黒子が黄瀬の手を止めた。

「学ランを脱ぐと寒いです」
「でも汚れるっスよ?」

確かに開け放しのドアから入ってくる空気はずいぶん冷たくなってきた。それが大きめに開いた隙間から入り込んでくるのだろう、黒子は少し逡巡した後ゆるりと首を振る。

「……了解っス、じゃあそのままで」
「はい」

どうせあとから暑くなるのになぁ、とぼんやりと考えながら、黄瀬は黒子のベルトに手を伸ばした。器用に片手でバックルを外し、ズボンから手を離す。膝の辺りでわだかまった布は、黒子の自由を奪っていた。
そのまま下着もずるりと引き下げると、腕の中の黒子がぴくりと反応した。まだ何の反応も示していない黒子のそれとは対照的に自分の股間で存在を主張しているものには呆れる他ない。
しかしそれでも毎回付き合ってくれる黒子も何だかんだとこの行為を楽しんでいるのだから結果としてはイーブンだろう。
そう考えてから、黄瀬は黒子の足の間に手を進めていった。
ふにゃりと柔らかいそれを握りこんでゆるゆると動かす。ぴくぴくと肩を揺らす黒子の首筋にキスを落とし、耳たぶを食んだ。

「んんっ……」
「黒子っち、可愛い」

ぴちゃぴちゃと耳に直接響く音が羞恥を煽る。ぬるりとした粘膜が這って、触れる空気が冷たくなった。黄瀬の手は相変わらず黒子自身に絡んだまま、空いた方の手が学ランの下から入り込む。
ひやりと冷たい手のひらに抗議する前に、するすると上った手が胸の突起を引っかいた。

「っ、ふ……ぅ……!」
「オレその顔すっげー好き」
「……?」
「声我慢してる顔。たまんねっスわ」
「悪趣味、です……」
「黒子っちが可愛いのがいけないんスよ? ほらこっちも。硬くなってきた」

きゅきゅ、と緩急をつけて握りこむと、じわりと先端から透明な液体が滲んでいた。それをまた指に絡めて、だんだんと水音を大きくしていく。自分の手よりも熱くなった手の中のそれをちらりと見て、黒子の顔を覗き込んだ。後ろから抱きかかえるような体勢で黒子の身体を弄る。控えめな反応はそれだけストイックで、黄瀬を満足させた。

「あ、あ…ぅ、黄瀬、く……」
「もう出そう?」

こくこくと頷く黒子に笑って唇にキスをする。はふ、と鼻から息を漏らして黒子は黄瀬の首に腕を回してきた。舌で咥内を犯してやりながら親指で先端をぐりぐりと弄れば、ぎゅうっとしがみついてきた黒子が黄瀬の手に白濁を放った。

「いっぱい出たっスね」
「ん、んん……ぁ、き、せくん、きせくん」
「黒子っちは甘えたがりっスね」

にちにちと親指で弄び、反応を返す黒子を楽しそうに見つめる。小さく頭を振った黒子は黄瀬の制服を握り締めてじっと見つめていた。濡れた唇はピンク色に色づき、そこらの女子なんか目じゃないくらいに可愛い。ごくりと生唾を飲み込んで、黄瀬は絡めていた指を離した。

「分かってるって。今日は意地悪しないっスよ」
「……っ」

黄瀬の言葉に先日の行為を思い出して顔が赤らむ。無言で顔を真っ赤にした黒子を小さく笑い、黄瀬は自分のベルトに手をかけた。
さっきから黒子の痴態に煽られていた身体は素直に反応を返している。下着を押し上げているそれを見て、黒子が怯えた色を滲ませた。
―――そんな顔したって、欲しがるくせに。
黄瀬は、まだ理性の残っている今の状態の黒子の表情が好きだった。この顔がそのうち乱れて黄瀬を欲しがる表情に変わる。蕩けそうな顔で足を絡ませて、もっともっととねだってくるのもいつものことだ。

「黒子っち、手ついて」
「……はい」

黄瀬の言葉に素直に頷き、黒子は便座に手を載せた。公衆トイレの壁には近所の高校生や中学生が施したのだろう下品な落書きがたくさん並んでいる。携帯電話の番号が書いてあるのを見つけ、ここに黄瀬の番号を書いたらどうなるだろうと考える。

「何考えてんの?」
「う、うぁ、あ……あっ」

ぐぐ、と押し込まれたのは黄瀬の指だ。中指に人差し指を添える形で、同時に二本入ってくる。ぐにぐにと穴を拡げるようにばらばらの動きをし、そのたびにむず痒い感触が下半身を襲う。
ゆっくりと両方の指を受け入れた秘所は、すぐに蠢いて快感に順応した。

「黒子っちの身体エロイっスね。ほら、指気持ちいい?」
「や、だめ……です…黄瀬くん…っ」
「だぁめ。力抜いて」

中指で前立腺を刺激し、緩んだところに三本目の指を挿入する。空いた片手は尻たぶを揉んだり乳首を引っかいたりと忙しい。一つ一つの刺激に反応する黒子ににんまりと笑い、埋め込んだ三本の指をばらばらに動かす。

「あっあっ……だめ、きせくん、だめです……っ」

細い背中がしなり、いやいやをするように首を左右に振る。身体を支える腕も震え、すぐにでも崩れてしまいそうだ。目尻から零れる涙もそのままに振り向き、キスをねだった。

「んんっ、ん……ふぁ…やめ、きせくん……」
「またイっちゃいそう?」
「……っ!」

何度も頷いて黄瀬に行為をねだる。後から考えるとよくもこんな恥ずかしいことができたものだと思うが、いつもこの瞬間はそれ以外のことが考えられない。早く、はやくひとつになりたい。

「じゃ、黒子っちの口から言って?」
「や、です……」
「言わないとこのままだって知ってるでしょ?」
「……ぅ、あ、やぁ……」

挿入された三本の指に翻弄され、理性が一枚一枚黒子から剥がされていく。最後に残るのははしたなくてあられもない自分だけだ。じわりと目に新しい涙を浮かべ、黒子は震える唇を開いた。

「いれ……いれて、ください……」
「何を、どこに?」
「……っ!」
「なんてね。オレも我慢できそうにないっス」
「あっ、あぁ…! や、やぁぁ……!」
「あんまり大きな声出すと聞こえるっスよ」
「んんっ、ふ、く……っ」

必死に口を閉ざす黒子に黄瀬の嗜虐心が煽られる。ずくりと大きくなった異物に黒子が目を見開く。だが黒子が逃げる前に腰を捕まえ、前後に腰を振った。ただ自分の快楽を求めるだけの動きと、黒子の性感帯を刺激する動きを織り交ぜながら互いに熱を高めあっていく。

「き、……くん、あ、ぁ……ふ、んん、っ!」
「黒子っち、かわいい、好きっスよ……っ……ん、出る……!」

散々我慢していた分上り詰めるのも早く、黄瀬は荒い息を吐いて黒子の中に精を注いだ。
びくんと跳ねた身体は小さく震えて黄瀬の吐き出したものを受け止める。腹の中を逆流する感覚が気持ち悪いのに、黒子の性器はとろりと白いものを垂れ流していた。

「ちゃんと全部飲めたっスね、いい子いい子」
「黄瀬君が飲ませたんじゃないですか……」

黒子の頭を撫で、汗ばんだ額に貼りついた前髪を剥がしてやる。まだ埋め込んだままのものは萎えておらず、緩く前後に動かした。
ぐちゅりと下半身から聞こえてきた音と隙間から流れ出る感触に黒子が眉を顰め、ぐっと力をこめる。もちろん黒子としては早く出て行け、という意味を込めたのだが、きゅっと締め付ける後孔に黄瀬は恍惚の溜め息を吐いた。

「やべ、黒子っち。それいいっス」
「え、ちょっと……」
「ほら、足上げて。もう一回しよ」

胸の前に手を回され、ぐっと後ろに引かれる。便座から離れた手はさまよった後に黄瀬の腕を掴んだ。黒子の身体を引き寄せたのとは反対の手で、黄瀬は黒子の片足を持ち上げた。黄瀬に寄りかかる形で立たされた黒子は不安定な体勢とあまりにも恥ずかしい格好に全身を火照らせる。腕を握る手に力を込めたが綺麗に無視され、ゆるゆると動き始めた腰に中をつかれた。固定していないからこそ変な場所に当って声が漏れてしまう。

「や、やぁ! きせくん、も、だめです……っ」
「あー……これすごいっスよ、中うねってる」
「ふぁ、あぁっ、や、だ……!」

どこを刺激されるのか分からなくて、ぞくぞくとした快感に黒子はすすり泣いた。黒子がしゃくりあげるたびに中がきゅっと締まって黄瀬は短い息を吐く。これで無意識だというのだから問題だ。

「あーもー……可愛すぎるっスよ!」
「え、あ、あっ……きせく、きせくん……!」

立たされたまま後ろからつかれ、身体を支えようと伸ばした腕も壁に届かない。仕方なく黄瀬の腕をぎゅっと抱きしめて、黒子は彼の手に自分の股間を擦り付けた。

「……やらし。触って欲しいんスか?」
「―――っ!」

意地悪く笑う声に耳たぶを刺激され、全身の毛穴が広がる。また小さく泣いた黒子をなだめるように腰を回し、擦り付けられたものを軽く撫でた。

「ん、んんっ……」
「冗談っス。気持ちよくしてあげる」
「あ、あぁっ、あ……ぅ、く……」
「いまさら声殺しても無駄っスよ、ほらっ」
「う、あ……や、やぁ……っ」
「……っく……!」

ぴしゃりと音がして放ったものが個室の壁に筋を作る。きゅうっと締め付けた後孔に従って黄瀬も黒子の中に欲望を放った。二回目でもまだ勢いの衰えなかったそれは腹の中を逆流してぐるりと回る。ずるりと引き抜かれたそれに声を漏らし、崩れた黒子を抱きしめた。

「……オレんち、来るよね」

耳元で囁かれた声に頷く。
結局のところ、黒子もこの行為に溺れていた。

20121011
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