その欲求を満たす相手として最適な人物を、黄瀬は知っていた。
「ねぇ黒子っち、ちょっと時間いいスか?」
部活帰りにそう声を掛ければ、黒子は立ち止まってこくりと頷いた。既に他の部員の姿はない。それを確認してから話しかけたのだから当然だ。黒子は体育館の鍵をかけると、黄瀬と並んで部室への道を歩く。
「何かボクに話でも?」
「んー話っていうか何ていうか。部室で話すっス」
「分かりました」
いつもは騒がしい部室も二人だけだとずいぶん静かに感じる。ベンチに腰掛けてスポーツドリンクを飲んでいる黒子の隣に座り、その手からボトルを奪う。非難がましい目で見てきた黒子を無視して中に入っているドリンクを飲み干した。
「黄瀬君、それボクのですよ」
「いいじゃないスか、あとで奢るっス」
「そういう問題じゃありません」
む、とこちらを睨んでくる視線に肩を竦めて空っぽになったボトルを返す。黒子は恨めしげにそれを見つめた後に軽い溜め息を吐いてロッカーの扉を開けた。立ち上がった細い腰に腕を伸ばして強く引き寄せる。バランスを崩した黒子が倒れる前に自分の膝に座らせた。
「……あの、黄瀬君。突然なんですか」
「オレ、興味あることがあって」
「はぁ」
「たまたまこの前友達んちに行って、そいつの姉さんが持ってたっていうDVD見たんス」
「お姉さんの私物をですか?」
それはちょっと、と眉をひそめる黒子に苦笑して彼の真面目さを実感する。だからこそ、黄瀬はその相手に黒子を選んだのだ。
「何が映ってたと思う?」
「ボクには分かりかねます」
「男同士で、ヤってんの」
黒子の腰を抱き締めて耳元で囁く。耳をくすぐった吐息に黒子はふるりと震え、信じられないものを見る目で黄瀬を見た。逃げられないようにぎゅっと腰に回した腕に力をこめる。そこでようやく黄瀬の意図に気付いた黒子は、先ほどまでとは比べ物にならない力で抵抗してきた。しかし体格でも力でも黄瀬のほうが強いのは明らかだ。いくら黒子が抵抗しても、黄瀬の腕の力が緩むことはなかった。
「き、黄瀬君、放してください」
「何そんな逃げようとしてんの」
「だって君は……」
「ま、普通はそうっスよね」
ゆるりと腰にまわしていた手の片方を股間に運ぶ。表面を撫でるだけの動きでゆるゆると触ると、それだけで黒子の身体に緊張が走った。怯えた目でこちらを見てくる黒子に黄瀬の口角が上がる。普段ストイックで感情をあまり表に出さない黒子にそんな表情をさせているという優越感が黄瀬の中に生まれていた。
「黒子っち、怯えてるんスか」
「やめてください……」
「やめるって何を?」
これ?と聞きながら股間に乗せていた手をきゅっと軽く握る。それだけで大げさなほどに跳ねた身体は、しかし黄瀬の腕の中では小さな動きにしかならなかった。
「でも黒子っち、勃ってきたよ?」
「ちが、違います」
「これ、違うんスか?」
つつ、と指先で変わり始めた形をなぞる。びくんと背中を逸らして黒子はぎゅっと手を握り締めた。黄瀬の膝の上という不安定な場所だからかそれ以外の理由か、彼は膝を微かにすり合わせていた。軽く触っただけだが、黒子のそれは自分のものより二周りほどは小さい気がする。それに確実に童貞だ。経験があるようには到底見えない。
(もしあったらそれはそれでショックなんスけど)
この前見たDVDを思い出しながら黒子の身体に手を這わせる。やり方は違えど基本的には女の子と同じだろう。Tシャツの裾から手を差し入れて薄い腹筋を辿る。いきなりの冷たい手の感触に黒子がはっと我に返った。服の上から黄瀬の手を押さえつけてそれ以上動かせないようにする。
抵抗されたことに何となく腹が立って目の前に見える首筋を舐めてやれば、ぱっと押さえつけていた手から力が抜けた。
「……っ、ひゃ…」
「男でも乳首で感じるんスね」
「や、やめてください……っ、あ……」
指先に触れた小さな突起を無遠慮に弄る。女の子の身体と違って触っても全く柔らかくない。こんな状態で自分が勃つのか甚だ不安ではあったが、黒子から漏れた声は予想以上に艶を帯びていた。これならオカズにできるかもしれないと考えて、黄瀬はぺろりと唇を舐めた。
「あ、凄い。ほら、黒子っち分かる?」
「あ、あ……やぁ……っ、んっ」
くにくにと乳首を捏ね、弾力を楽しむ。これはこれで案外楽しいかもしれない。びくびくと身体をそらせるせいでずり落ちた身体を床に座らせる。そのままでは硬いだろうと、部室の隅に積んであるストレッチ用のマットを引っ張り出した。青いマットの上ではぁはぁと呼吸を乱している黒子は、とろんとした目でこちらを見ている。
黒子のハーフパンツに手をかけて下ろそうとすると、また黄瀬の手を掴んでふるふると頭を振った。
「駄目だよ黒子っち。手、離して」
「何で……男同士でこんなこと……」
「興味あるからに決まってるじゃないスか」
にっこりと笑って黒子の手を押さえつける。そのまま腕を伸ばして自分のロッカーを開け、届く場所にあったネクタイを引っ張り出した。嫌な予感に瞳を揺らした黒子を無視して、手早く手首にネクタイを巻きつける。反対側を先ほどまで座っていたベンチに括りつけ、ゆっくりと身体を離した。
「ん、これでいいっスね」
「……っ! 黄瀬君!」
ぐっぐっと何度か手首を引っ張ってみたが、結び目はびくともしない。重いベンチはこの不自由な体勢で動かせるほど軽くない。小さくがたがたと揺れるだけで黒子の現状を変えるには至らない。
「続きするっスよ」
「お願いですから……!」
「黒子っち、ごめんね」
ずるりとハーフパンツと下着を一緒に下ろす。無機質な蛍光灯に照らされ、黒子の下半身は小さく主張をしていた。当人の顔は顔を真っ赤に染めて目尻から一粒の涙を流す。
「やめてください……」
「大丈夫っスよ、泣かないで黒子っち」
なでなでと頬を撫でる手にそっと目を開ける。優しい声に、これは行き過ぎた悪ふざけだったのだと期待がよぎる。しかし残酷にも綺麗に笑った黄瀬は最後通告の一言を吐いた。
「男同士って女の子とヤるよりいいんだって」
◆
「う、うぁ……っ、あ……」
ぐちゅぐちゅと濁った音がする。音源は自分の下半身だ。腕を頭上で固定されて、腰の下に敷いたマットはさっきから身体を動かすたびに少しずつずれていく。ひんやりとした感覚が付きまとっているのは、垂れたローションが広がっているからだ。
「ほら、黒子っち動かないの」
ぺちりと尻を叩かれて小さく声が漏れる。物凄い異物感の原因は黄瀬だ。カバンに入れていたらしいローションを黒子の尻に塗りたくり、試しにと一本指を埋められたのは十分ほど前のことだ。今はもうその指が二本に増え、黄瀬の雰囲気からするともう一本くらいは増えそうだ。
「……ん、んん……は、はぁ……」
「黒子っちも大分慣れてきたんじゃないっスか?」
小さな揶揄を含んだ声にカッと顔が熱くなる。返事をするのも癪で無言を決め込んだが、ぐりっと押された感触に溜まらず大きな声を出した。何度か抜き差ししている内に黒子が反応する場所を見つけた黄瀬は、悪戯にそこを刺激しては水音を鳴らす。
「こんなもんかな……黒子っちちょっと待っててね」
黒子の中から指を抜いてごそごそと自分の服を寛げる。ローションを手のひらに足して今度は自分のものを擦り始めた。黒子の痴態だけでは硬度が足りなかったそれを完全に勃たせ、黒子の足を持ち上げる。じっと自分の股間を見つめている黄瀬に、いま何が映っているのかを悟って黒子が真っ赤になった。
「はは、凄いっスよ。ローション出てきた」
「……っ」
「ん、っと……この辺かな……」
指で場所を探り、先端を押し付ける。互いにローションにまみれて境界線が分からない。それでも熱い塊が入り口を押し広げようとしていることに今更ながらに不安が勝った。きゅうっと閉じてしまった入り口に溜め息を吐き、黄瀬は黒子のものに手を伸ばす。五本の指が絡みつき、違う動きをすることについ意識がそれてしまう。一瞬の隙をつかれ、ぐっと押し込められる。めりめりと自分の股間から音がしているようだ。思わずぶんぶんと頭を振り、これ以上は無理だと動きで伝える。しかし黄瀬は黒子の頭を押さえつけて更に腰を進めてきた。一番太い部分を飲み込んだのか、そこから先はスムーズに全てが収まった。だが黒子にしたら、腹の中に異物を無理矢理入れられたようなものだ。
苦しくて重い。呼吸がしにくい。
「あー……確かにこれ、全然違うっスわ」
「うぁ、あ……あ、あぁ…!」
黒子の心境などお構いなしに腰を振る黄瀬に悲しくなる。彼の興味本位を満たすためだけに自分は今こんな情けない状態になっているのだ。時折掠める快感よりも、その事実のほうが黒子に重くのしかかる。
「すっげ、キツイ……それに、密着、してるっつーか……っ」
「……っ……きせ、く……ぅ、あ…!」
「は……っ、これ、クセになるっスね……」
ガタガタとベンチが揺れる。下に広がったローションが水音を立てる。互いの腰骨がぶつかる痛みを肌を打つ音が二人きりの部室によく響いていた。やがて黄瀬が果てるのと同時に自分に絡められた手がぎゅっと強めに握り締める。その刺激に思わず黒子も白濁を放ってしまった。どさりと自分の上に乗っかってきた黄瀬は汗ばんだ肌を密着させて余韻を楽しんでいた。腹に散った白濁が二人の間でぬちゃりと音を立てる。
「はぁ、はぁ……ね、黒子っち」
「………」
黄瀬はそっと黒子の耳に唇を寄せ、秘め事だといわんばかりに小さく囁く。
「また、シようね」
ふいと黄瀬から背けた顔から、黒子はぽろりと涙を零していた。
20120914