目が覚めた。手首に少し重みを感じそちらを見ると、物騒な手錠が自分の左手とベッドの柱を繋いでいた。一体どういうことだと起きぬけの頭をフル回転させる。
 まずここは紛れも無く自分の部屋である。誘拐されたという線は無い。更に荒された様子も無いので泥棒という線も消えた。俺をここに留めることで誰に得があるのだろうか。それを必死に考えるけど答えは見つからない。IQ400が聞いて呆れたもんだ。

ガチャリ

 ドアノブが回される音がした。俺は反射的に身構える。そしてゆっくりドアが開き、誰かが入ってきた。


「…キッド…?」


 そこにいたのはよく知っている怪盗キッドだった。白いシルクハットに白いスーツ…モノクルの下の顔だって間違いない。いや待てそれはおかしい。だって俺はここにいるんだぞ、キッドの正体である黒羽快斗はここに!

「やあ、お目覚めですか」

 声だって俺のものだ。誰だ、誰がキッドに変装しているんだ。必死に考えるが頭は全く追いついてくれない。キッドはこちらへ歩いてきて、スプリングを鳴らせながらベッドに片膝を乗せた。近くで見ると益々似ている。
 キッドは俺の顎を掴み無理矢理上を向かせた。

「混乱してるようですね」
「お前は誰だ」
「…そんなの、貴方が一番良く知っているじゃないですか」


「怪盗キッドですよ」



 ふふ、と笑うキッドに俺は不思議な気持ちを抱いた。俺はここにいるけどこいつはキッドなのだと思ってしまったのだ。それよりもどうしてこんなことになっているのかを聞きたくて口を開こうとした。しかし俺より若干向こうのほうが早かったようだ。

「私はこれから名探偵の元へ向かいます」
「名探偵の…?」
「ええ、これからは怪盗キッドは全て私が請け負います。貴方は黒羽快斗のほうをお願いします」

 少し早口にキッドはそう言った。彼の言っている意味がこれっぽっちも理解できない。疑問を言葉にしようとしたら再び彼のほうが早く口を開いた。



「つまり、貴方はもう名探偵に会う必要が無い」



「…な…んだよそれ」
「それでは行ってきます。おとなしくしていてくださいね」

 キッドは俺の話も聞かずマントをなびかせてドアへ向かう。追いかけるにも手錠がそれを阻む。こんなもの一瞬で…と思うがそれも構わない。これを仕掛けたのはキッドなのだから。

「くそ…っ、ふざけんなよ!俺から名探偵を盗らないでくれ!」
「私は怪盗ですから」
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