携帯から着信音が聞こえてくる。
「…謙也さんや、なんやろ」
謙也さんとは、恋人同士でも何でもなく、俺の尊敬する人で、特別と言えば特別になるかも知れないけど、一定の関係でしかない。
鳴りやまない着信音に嬉しさと苛立ちを込ませ、相手が痺れを切らした頃合いを見計らって通話ボタンを押す。
「…なんすか、」
実に素っ気ない声音で喋れると、相手は不快な思いをするものだと考えていた自分の定義を簡単に変えてしまったのも謙也さんだったけ、と改めて考えさせられた。
「おはようさん!光は今日、予定空いてるんやろ?」
いかにも自分が暇人のような言い回しに腹が立つものの、謙也さんと出掛けられるのならば、承諾する道しか残っていないやろ、普通と思い、
「まあ、暇でしょうがない謙也さんの為に付き合ってあげなくもないすけど…」
「おおきに!じゃあ、一時くらいに光の家に行くから待っててな…ほな!」
流石、浪速のスピードスターや、電話切るのも早いんやなと要らん感心をしてから携帯を閉じて、支度をする。何がええかな、と普段からお洒落を欠かさないように他人から見られていることを自分でも知っているので、本当に迷った。
これは、ちゃらすぎるやろとか自分に似合わへんなとモノクロトーン過ぎるんのも駄目やな等と一人ファッションショーを開催していた。
そんなことをしている間に、時間は過ぎてしまう訳で、1時近くになっていた。あ、待たせんのもダサいよな、と心の中で呟き、今着ている黒のボトムスに白のTシャツで外に出る。
「待たせすぎやっちゅーねん!」
痺れを切らしたのか少しイライラしている謙也さんに
「いや、あまりにも外が暑かったんで出とうなかっただけですわ」
「俺との約束のために頑張りや、そこは。ほな、行くでー」
ああ、きっと世話好きな人だからこそ、休日にも連れ出すんやな。友人なんて居らへん俺がこの人からみたらごっつ可哀想に見えてまうんやろな、
手を差し出した謙也さんの顔は俺が憧れた太陽のような笑顔で、この人やから手を預けたんや。と自分に言い訳を作った。
「謙也さんは…あほっすね」
そんなことを言いながら、柔らかい表情で返した可愛くない言葉。
不器用な笑顔
(光のやつ、笑ったで…かわええとこもあるんやな)