「やめえや、嫌がらせなんてそんなんダサいでえ」
財前は、頭上から聞こえた声に耳を傾ける。多分、声は財前の目の前にいる部活の三年生に向けられたものだと思う。その三年生は、財前のラケットを片手に持ち叩き付けようとしている手を阻むように謙也の腕がその手を掴む。
「謙也さん、何でここにおるんですか?」
明らかに財前は、自分がやられている嫌がらせを他人事のように見ていた。謙也はそんな財前を見て、可哀想に思った。普段はクールぶっていて、でも一人にされると拗ねて我が儘でそんな財前がラケットを叩き付けられそうになったときに少しだけ悲しそうな表情をしてから、助けてという瞳をしていた。誰も助けてくれないことが解っとるんやろうな。
「可愛ないのー、自分のラケット大事にしなや」
「わかってますわ、」
財前は、助けてくれたことに少しだけ嬉しさと照れを感じながら、ただの一言だけ
「すんません、謙也さん」
礼でもなく謝罪を放った。絶対に謝らない財前が無表情ながらも謝ったのだ、謙也も至極驚いた顔をしてから
「謝罪はええよ、どちらかと言えば、ありがとうと言われたかったんやけどなー」
調子に乗ったように顔を弛ませながら呟いた。
少しだけ財前の表情が微笑んでいたのを見れたことに感動した。
「あ、もっとかっこええこといっとけば良かったんかな。それにしても、財前、素直やないな」
それは遠く離れている財前に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
あんたは優しすぎるんや
眩しいんや、もう離れられへんのや…/0701