気分が優れないときは誰しもあることで、歩くスピードが普段よりも遅かったり声のトーンが低かったりと普段から一緒に居れば気付く。相手は頑なに自分は元気だと主張しているようだが空元気だった。
「先輩…寝てた方が楽やと思いますわ」
「やーかーら、元気やって言うとるやん。」
こんな会話が一時間続いていた。朝練に来るのも辛そうなんだから我慢して家にでもこもっていれば良いのにと思うが本人が嫌だという以上、こちらには止める権利なんぞないのも知っているが、頑張り過ぎてしまう先輩を止めることも後輩の役目なんだろうと思ってしまうあたり自分はその相手を気に入っていた。
「先輩…風邪が悪化してもうたら俺とダブルス出来へんすけど。」
「えっ…いや治す!財前とダブルスしたいからこんなんでも学校までは、来れたんやけど、出来へんかったら意味ないやん」
確信はあった。この人が風邪を引いているという。そして、この人に無理をさせてしまっているのは自分なわけで、罪悪感だけが押し寄せてくる結果となる。気遣いがある部長みたいなタイプであったのならこんな気持ちにはならなかった。多分だが、部長の場合は死にもの狂いで自分の信念を貫くタイプだから隠し通せること間違いなし。謙也さんなんか足元にも及ばない。
「でしたら、帰れや!そんなん言われても嬉しいわけあらへん。俺が居ることであんたに迷惑を掛けるようなことはしとうない。だから、帰れやアホ」
いつもと同様、可愛げない言い方で言葉を返す。こんなことを言われてもへこたれないのは知っているが、一応自分らの関係に関わることなので一つ言葉を付け足す。
「俺も付いとるから、看病くらいしてやりますわ」
「ありがとうな、治ったら甘味処行こうな。ぜんざい奢ったる」
2人で手を繋ぎ帰り道を歩く。ふと思い出したように、財前が言った。
「あ、バック学校に忘れてきてもうた。部長にも早退する言うてへんし、最悪や。謙也さん…ぜんざい3つで許したります」
些細なことでも/0922
いつになく謙也に甘い財前と普段と同様に財前に甘い謙也