人の声が絶えない教室から廊下に出てすたすたと歩いていく。外に出れば、豪雨でもなく小降りでもない標準的な雨が降っていた。豪雨ならば、しばらく止むまでの間ぼーっとしてるつもりだったが、これくらいの雨ならはやく家に帰ってパソコンをした方が時間を有効活用出来ると考え折り畳み傘を出しゆっくりと歩いていく。別に急いでいるわけでもないので信号に捕まろうがどうということもなかった。
「あ、アホがおる」
何に対して無関心な声音で、傘をささずに走る人がいた。
「っ、財前やん。」
社交辞令のような表情を浮かべて直ぐ様この場から去ろうとしたところを見て苛ついたので先輩の裾を握り行かせまいようにする。そんな行動をした財前に謙也は驚きを隠せずに突っ立っていた。
「傘、ないんすか」
「ある、けどこれくらいの雨で傘はささへんやろ。浪速のスピードスターは、雨をもよけれるっちゅー話や!」
「なわけあらへんやろ、アホちゃいます?」
口では憎まれ口を叩きながらも行動は謙也を思っているようで、傘のなかに謙也を入れてあげる。綺麗に二人分なんて入るほどこの折り畳み傘が大きなわけでもないけど、少しでも気休めになれば、との優しい気遣いなのかもしれない。
「ん?傘はあるんやけど…というか財前濡れとるやん!傘、貸しぃや」
ぶっきらぼうに傘を財前から取り上げ、財前の肩を自分の方へと引き寄せる。
「は、?なにしとんすか。」
「これでおれも財前もぬれへんで」
「いや…もう何でもないすわ、それより謙也さんは俺の家までついて来てくれるんすか。」
多分、これを言えばヘタレな謙也さんは、あたふたしながら走って自分の帰路へと戻るだろうと思っていた財前に謙也は、
「一緒に入りたかったんやろ?一緒に帰ればええやん」
「そ、そんなこといってへんすわ。」
「俺にはそう聞こえたんや。だから、このまま帰ろうや」
なんて夢のような話なんだと思いながら、照れ隠しで謙也に無理難題を言いながら財前は、自分の家へと歩いていった。
(惚れてしまったなんて言ったらどないな反応するんやろな)
雨から得たもの/0916