少しでもこの距離が | ナノ


※財前一年生時代





掴み所がない奴だとはわかっていた。孤独を好んでいるというよりかは、人との付き合い方がわからないので一人でいるという感じだ。もっと教えてあげたいと思った。人とのコミュニケーションや感情などを。

「財前、おはようさん!」
少し猫背気味にゆっくりと歩いている財前を目前にして、声をかける。

「…、はようございます」

最初の言葉が小さすぎて聞き取りずらかったが挨拶は返してくれたので、気分がよくなった。一年生ながらにして球拾いを卒業し、レギュラーとなっている財前は、堂々とした顔立ちでテニスをしている。基礎練習が嫌いなようで、練習試合のときは、鬱憤を晴らすかのような表情で試合に挑んでいる。相手が打つコースを予測して走っている財前を見て天才と思う他はない。それはわかっていても謙也は、財前を天才だとは思わなかった。

謙也は、財前を目で追っていた。恋愛関連で見ていたのではなくただの興味本位で、仲の良いレギュラーが喋っているなか黙々と着替えている財前が気にならないはずはなかったと謙也は、思っている。白石に話をしてみれば財前はきっと可愛い奴なんやとどこか断定した口調で話してくる。

「なあ、自分はどうして笑わないん?」

こんな質問を唐突にされても困るのはわかっているが、聞いてみたかったという好奇心には勝てなかったので聞いてみる。

「そんなん知らないっすわ。先輩から見て笑っとらんかったら笑ってへんとちゃいますか。」

「なんや、財前はいつ話してもつんけんしとるんやな」

財前は、きっと笑っているんだ。誰にも気付かれはしないが笑っている。ただ感情を表にだけないだけで笑っていることを謙也が気付くはずもなかった。財前を興味本位としてではなくわかってあげようとすれば、財前の微かな表情にも気付けた。だから白石は、財前のことを可愛いといった。
謙也が財前を理解しようとするまで後六ヶ月。
財前を好きになるまで後、一年。




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