「、どうしたん?」
物音一つも聞こえないなかで、謙也の声が響き渡る。その言葉を向けられた相手は、謙也の腰に抱きつきながら腕の力を強めた。 いたい、と何回言ったところで離してはくれないことくらい今の相手は落ち込んでいた、と思う。本人の心境など知りもしない謙也はこの行為に身を委ねて相手の背中を擦ってやる。
「、光らしいないな。どうしたん、ゆうじにでも意地悪されたん?」
そんな馬鹿げたことでは無いのは気づいていたが、今はただそれしか浮かぶ言葉がなかった。謙也は、財前が思っていたよりも繊細でネガティブなことを知っていた。
「謙也さん、俺を何だと思っとんのや」
「それじゃあ、何があったん?言わなきゃわからんこともあるで」
どこのお母さんだこれはと思いながらもこんな光は今まで見たことはなかったので、接し方がわからなかった。あまり人と戯れることのない光の内面には何かがあるのかもしれへんと、勘ぐってはいたものの実際、こんな時に何をしたら良いかなんぞ謙也は考えてもいなかった。最近、ぜんざいをあまり食べていなかった気がするなとは思ったりもしたが多分、いや、全く違う。ぜんざいが食べたいんなら謙也や家族らにねだるはずと失礼ながらも謙也は考えていた。
「…謙也さんは、ずっと側に居る?」
「おん!光の隣は俺の特等席やと思ってるで?」
この人は後先を考えない、今だけを考えている。だから心配でならなかった。明日には捨てられるのではないか、来月には…など相手の気分を伺って付き合うのは辛い。今が幸せなのは良い、けど、未来が俺には問題なんやと思いながらより一層強く抱きついた。
それでも遠くに行ってしまいそうで/0901