(現パロ)(グロ注意)




覚えてるのは気持ち悪い事だけって、そういう訳じゃない。
けど記憶に強く残って離れないのは、そういうものだ。



誰も居ない教室。窓をくぐってぽかぽかした暖かい日差しが入り込んでいたけれど、そことは離れた机の上に腰掛けていた。窓の向こうには建物と、そのまた向こうにきれいな青空。少し雲が浮かんでいるけれど。
俺以外のみんながわあわあと校庭で騒いでる。確かに体育だって好きだけれど、今はやっぱり、そういう気分じゃない。目を閉じた。



目蓋の裏に焼き付いて離れないもの。
赤黒くってきれいな桃色のようでもあって、でもそれをきれいだなんて言っちゃいけない。肌は青白くて閉じられた瞳は、開けてみせると瞳孔が大きくなっている。地面が赤い。だらだら流れる水のようなそれに、抉られて、……覚えている限りの、涙の出るんじゃないかっていう、厭な臭い。感覚なんてのは残っていないけれど。ただ苦しくて辛くて、そんな感じの。今じゃ言い表せない気持ち。

どうして俺は覚えちゃってるのかなあ。

ぱちっと勢い良く目を開いてみても、窓の外の景色は分からない。
頭の中はぐるぐると気持ちの悪さが残っているのに、目に映る景色はどうしてもきれいだ。爽やかだ。

「あーああ」

声を出しても振り払えない。
覚えているのは、気持ち悪い事。
その奥の奥で、笑う自分も覚えているけど。
血とかそんな、人の死に触れていたのに気が触れずにいたのは、自分でもすごいなあと感心だってしている。そうして今だって、悩んで悶々としているけど、おかしくはなっていないし。ただ。

「…思い出さないかな」

みんなが居たらこそだった、とは、思うんだよね。

兵助も雷蔵も八左ヱ門も。覚えてくれていないから。
鉢屋だけは覚えてくれていたのが、救いだなあ。手を伸ばして指先を見つめても、それはただの肌色だし、赤く染まる事はない。俺の目蓋の裏に、実際焼き付いている訳でもない。

本音を隠すのは得意だったし、人と仲良くなるのだって俺には簡単だし、苦ではなくって寧ろ楽しい事だった。だから兵助たちの記憶もないまま仲良くだってなれた。


辛い訳では、ないと思う。
まだ窓の外ではざわざわ、楽しそうで、あと悲鳴とか、もう色々黄色い声とか。ああでもこの閉塞感は、つらい。


「勘右衛門」
「…はちやぁ」

何だその情けない声は。
机に仰向けに寝転がって、頭だけを逆さにしてみる。上下反対の鉢屋のできあがり〜。なんて考えていたら、情けない声が出たのか、鉢屋の冷たい声。

「さぼっちゃった?」
「…まあ」
「鉢屋やさしいなあ相変わらず」

雷蔵だって居るのに、俺を心配してくれるんだから。鉢屋のそういう所が変わらずにいたから、それで一番安心できた。



鉢屋。
俺の中の気持ち悪い事って、どうやっても消えそうにないけど。
お前もそうだっていうのが、今の俺を作ってるような気がする。


目を細めたら、鉢屋のつめたい手に覆われた。





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(120316)
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