狩屋の背中はなんだかさみしそうだ、なんて言われたって、はあ、そう。なんてしか俺は返せない。だって自覚ねーもん。っていうか背中は自分じゃ見れないもんでした。
しかしまあ。剣城くんって何か詩人みたいなこと言っちゃう人だったっけ。こっそり首を傾ける。詩人って言っても名前とかひとつも浮かばないけど、なんていうか、背中がさみしそーって、アレじゃん、ほら最近国語の授業で言われたアレ、そうそう擬人法。でも背中って既に俺の一部じゃん?ってことは既に人?っていうかどこまでが人?
「狩屋?」
「あ、ああえーっと、さみしそう?なんだっけ?」
「ああ」
「どこが?」
途中から国語に占拠されていた頭の中を入れ替えて、さて俺はなんて話を続ければいいのかなあなんてぼんやりと思った。
剣城くんが言うことってどれもが大事に思えるんだろうけど、それってただ剣城くんが無口なだけだっていうことに俺は既に気付いていた。だからつまんねー冗談を言ったとしても周りにはそうとは受け止めてもらえないっていう、何ていうか、そんな感じ。
だから別にこう、受け流すつもりで聞いてても構わないんだよなあ、なんて分かっていながらも、俺はやっぱり話を続けたいもんだから、ついつい話に入り込んでしまう。
ベンチに座らないで背もたれにして地べたに座り込んでる俺とは違って、剣城くんはベンチにどかーっと座ってる。天馬くんたちは休憩時間だっていうのにまだまだボールと戯れてて、先輩たちは反対側のベンチに集まってる。毎日ボール尽くしだっていうのに。休憩時間は休憩しないと駄目だろーって、言いに行った方がいいかも。
「例えば、今日みたいに晴れてるだろ」
「うん」
「その中でお前の背中見つけると、思う」
わからん。
女心と秋の空っていう季節なのか、天気は毎日ぐらぐら変わってくけど、今日は日射しはあたたかかった。昨日は寒くてみんなブルブルしてたけど、まあサッカー小僧はいつでも元気なものだった。なんて。
それで?えーと。晴れの日の俺の背中がさみしいと。どういう。首をひねる俺に、まあ剣城くんもむちゃくちゃなことを言ってることは分かっているらしくて、ちょっと眉間にしわを寄せた。
「お前、細いだろ」
「ん?いや、そんなつもりないけど」
「……俺にはそう見えて」
黙殺された。
「うっすら肩甲骨がな、浮いて見える時がある」
「けんこーこつ」
「………」
分かってないなお前、みたいにじろりと見られて、素直に白状する。どこの何でしょうか。背中上部の骨だ。あ、分かったアレねアレ、オッケー話をどうぞ。……。
「天使の羽あと?だったか?」
「えっ何が?何が?」
「肩甲骨」
なにそれはずい。
それを知ってるのもはずいし、それをさらりと口にしちゃう剣城くんもはずい。いや本当に何で知ってんの。いや口にはしないけど、したら剣城くん俺を一発殴ってボールと戯れに逃げちゃうから絶対言わないけど。あっあと様になってる剣城くん怖い。かっこいいね。まじ怖い。
なんて考えながら、片腕を背中に回してけんこーこつに触れる。天使の羽?生えてて、その名残りって?そういえば俺アダムとイヴの話と猿から人間に進化したって話ごっちゃにしてたけど、そこに天使説もあったら更にはちゃめちゃな人類誕生談ができていただろうなと思う。とんでもない。
「それを見てると、何だかさみしい奴だなと」
「俺が?」
「…背中が」
目を逸らして言う剣城くんに、この人何気まずそうにしてるんだろうなあ、なんて思いながら。けんこーこつを撫でる。いや本当は、分かってるんだけど。俺がさみしいなんて思ってないのに、そうやって決め付けてるようで、ばつが悪いっていうやつ。
剣城くんを振り返っているのをやめて、背中に腕を回すのもやめて、地面に指ひとつだけを立てると、細くて長い影が俺に吸い込まれていくみたいに伸びている。天気のいい日。向こう側には笑い声たち、俺たち2人には沈黙。風はあんまりない。
「剣城くん」
「…なんだ」
「触ってみてよ。俺の、けんこーこつ」
「な」
「なに」
「いや」
「触ってって」
振り向かないままに急かして、そのまま何秒か待って、そこでようやく何かに触られた感触がした。何を戸惑っていたんだろーかね、なんて少し呆れた気持ちで、そのまま口に出す。
「別にためらうこともないじゃん」
「…ああ」
「さみしそうに見えたらまた触ってよ」
「は、いや狩屋」
「よく分かんないけどさあ、そんなこと考えてる剣城くんがかわいそう」
軽く合わさってるだけの剣城くんの手を、また腕を回して掴んで、そのまま背中に押し付ける。一瞬びくりと動いたその手のせいで少しくすぐったかったけど、構わずに言葉を続ける。何が言いたいなんかは俺にもよく分かってないけど。
「俺がさみしそうじゃないならいい話なんだろ」
振り返って見ると剣城くんはなんか、へんな顔をしていた。多分照れてるのと、焦ってるのと、ばつが悪いのと、まあなんていうか、色々。
それを見ていると何だかいじめているような気がしてしまって、そういえばちょっと怒ってる雰囲気だったかなと思って笑ってみせる。
そういやこの背中の話してる時笑ってやってなかったな、なんて。
「剣城くん触ってくれるなら、さみしくないじゃん」
なぞる手のひら
ウオオオオオオオォォォォォォあのね、あのね、あのねえええええもっと京マサちゃん描いてもいいのよ!!!!!!!!()