ヒロトさんへ



本当なら最初には季節とかお加減いかがですかって、そんな言葉を書かなきゃいけないんですね。手紙って思ったより面倒くさい手順があるって、最近知りました。
でもあたしは書かないでおきます。
ヒロトさんには普通に会ったり話したりするんだから、お加減とかは、聞かなくていいし。季節の行事みたいなのには、ヒロトさん、必ず来てるし。だったらいらないかなって思って。
手紙で体の調子を聞いても、嘘をつく人も居ると思うので、あたしは直接聞きますね。ヒロトさん、体壊してないでしょーね。って。



ヒロトさんはあたしからいきなりこんな手紙渡されて、不思議に思ってるんでしょうか。それともやっぱり何かを感じ取って、仕方ないなあ、って思いながら、がきんちょの手紙を親みたいな気持ちで読むんでしょうか。

あなたはあたしの事、何でも分かってる風がありました。
その雰囲気が、最初大嫌いでした。分かってるフリをしてるんだって思う反面、この人はあたしの嫌な事考えてるのも見透かしてるんだ、っていう、嫌悪と恐怖。それを感じさせるあなたの雰囲気が嫌でたまらなくて、だからヒロトさんの事をずっと避けていた。
今ではそんな事ないってのも分かってるでしょう。

とにかくヒロトさんは、何だかあたしを分かってる感じ。それはあたしが子供でヒロトさんが大人だからか、あたしとヒロトさんがすこうし似ていたからかは、分からないけど。


あたしがどうしてこんな手紙を書き出したかというのは、もう少し後に書こうと思います。今ははっきりとした言葉が頭に浮かばなくて、色々つづっている内に何かが浮かぶ事を希望しながら。
ヒロトさんをどうしてあたしの中に受け入れるようになったのか、実を言うとちょっと、自分でも不思議です。
あたしは本当に、ずっとずっと、誰も自分の心っていうのか、領域には入れないつもりだったんです。一緒に居るときっとその内に警戒は緩んでしまうから、誰とも一緒に居ようとも思いませんでした。嫌いっていうのもあっただろうけど。でもあたし、人よりちょっと人嫌いなだけで、そこまで酷いつもりはない。

なんていうんですかね。
やっぱり、信じる信じないっていうのもあっただろうけど、大事なものをつくったとして、その大事なものがあたしを裏切らない自信がなかったんです。その裏切りが意図しない事であったとしても、あたしを裏切ったら、やっぱり傷付くじゃないですか、あたしはそれが、怖かった。

裏切られても大事なものを大事だという勇気も度胸も強さも、あたしにはなかった。


だから、誰もあたしの中には入れたくなかった。

ヒロトさんの時も。とにかく嫌いだったあの時を振り返ると、そんな思いがあったかなあと思います。

だけどあたしがそういうのを考えずに、自然に心の中に入っちゃったのは、ヒロトさん、あなただ。
自然っていうよりは、なんつうか、じわ…じわ……って、なんか熊が近寄ってくる感じ。まあヒロトさんはひょろっこいから熊にたとえるとなんか、変だけど。



あの頃のあたしの城はすべり台。
瞳子さんが前言ってた、ヒロトさんの城はブランコですっけ。あたしたちは遊具を独占する事で、誰よりも孤独になりたかった反面、とっても構って欲しかったみたいですよね。誰かが救いに来るのを、待っていたんじゃないかしら。って、瞳子さんは言ってた。
あたしは自分でそう思った事はなかったんだけど、心の中ではそうだったかもしれません。



うーん。
だらだら書いてごめんなさい。書く内に色々と思い出して、どうやって文章にすればいいのか分かんなくなってきました。まあ普段からこんなん滅多に書かないし、許してやって下さいね。


つまり、あたしがあなた、ヒロトさんに伝えたい事。



あたし恋してました。



初めの内は認めたくなくって躍起になって、受け入れてからはヒロトさんの事を考えるだけで口元ニヤニヤしちゃったりとかさ。ちょっとしてからは、好きなだけで何になるんだろうって考えて、それから、


それから、ずっと、つらかった。

恋なんてするんじゃないや。つらい。心臓がいやに騒いで涙腺が緩むだけだ。嬉しい事だってそういうもんに塗り潰されて探し出せなくなる。あたしには見付けられない。



なんて。
本当は分かってます。
今ちょっとヒロトさん、心配したでしょう。またあたしが後ろ向きな事愚痴り出したから。



思ってはいますよ。

でもやっぱり、ヒロトさん、あなたの事考えて胸があったかくなるのも、本当。
それにあたしはどんなベクトルにしたってヒロトさんが好きだから、・・・だから、おもいを否定するのは、違うかなって思うんです。



あたし今はあんたに恋なんかしてやってません。
こんな若い女の子が、これからおっさんになるばかりの人を好きになるなんてもったいない。断言。

実を言うとちょっと慰めてくれた、とある男子がいるもんだから、ヒロトさん邪魔しないでね、なんて。


ねえ。
これ読んだら捨てて下さいね。恥ずかしいから、誰にも見付からないように。

またお日さま園に来た時には、その時はあたし、あなたの背中にサッカーボールを蹴りつけてやる。

だから、一緒に遊んで下さい。
あたしが初めて恋した人。




(120603)
またもやテンプレお借りしました〜
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