会いたくないけど声だけ聞きたいの、鬼道くん、切らないで。


言われてしまっても、俺はもうお前の家の前に突っ立ってしまっているんだ。間抜けにも携帯を耳に近付け、もう片方の手をうろうろさせながら、俺は返事をする。

「どういう事だ?」

ぐず。すん。

鼻をすする音がして、まさか泣いているのか、とゴーグルの中で目を見開く。何かあったか。俺が何かしたか。誰かに何かされたのか。
そこまで考えて俺は耐えきれなくなり。ぴんぽん。間抜けな音。
電話の奥から、うう、ん゙ー、と唸る音。ちくしょう誰だ。そんな声。すまない俺なんだ、とは何だか言いづらくなってきて、むしろ玄関が開いて何を言われるか怖くなってきた。

ごめん鬼道くん、ちょっと切るね。でもまた電話したいの。ごめんね。

そんな可愛い事を言う不動に、思わず白状。すまん。は、何が?今お前が玄関を開けるのを待っているのは、俺だ。……………ちょっと待っていま開ける…。





「心配で」
「…うん」

力無く笑う不動に動揺した。怒らないのか。怒る程の気力すらないのか。一体お前に何があったと。

クッションの形が分からないくらいにぎゅうぎゅうに抱きしめて、不動は三角座りで俺と向かい合っている。足と腹の間のそれは、確か不動の誕生日に部員の誰かが贈った奴だ。下心はなしのプレゼントだったので容認した。

更に心配になって、だけどかける言葉も見つからずに黙っていると、不動はふうー、と静かに息を吐いた。堪えるように眉が寄っている。悩ましげなその表情が、何だか綺麗でみとれてしまう。すんすん。鼻をすする音で我に返った。

「あの、会ったらイライラで八つ当たりしちゃうかもって思ったんだ」
「八つ当たり?」
「…ん、うん。でも一人で耐えてんのも辛かったから」

何が辛いと言うのだろう。
やはり何かがあったに違いない。
表情を険しくする俺に、不動は顔を曇らせる。というか、少し気まずそうだ。えーっと。指をちょろちょろと動かしている。

「あの…あれ。今生理でしかも痛くてたまんないからちょっと寝転がってたいから鬼道くんちょっとごめんね」
「え」

何かちょっと俺はもしかしてデリカシーとかなかったんじゃないかっていうか不動早口じゃないかっていうかちょっと待て痛い?痛いのかどの位?そういえばよく見れば。顔も青白い。ていうかいきなり謝ってきたのはどういう事、だ、




「ふ、…ど、う」
「……ごめん…」

膝元の、ふわふわした茶髪。それなりの重量と、熱。
俺の、膝の上に。

「お腹いたい…」

消え入りそうな声にハッとする。よく見れば両腕を自分の腹に回して膝を折っている不動は、体勢を簡単に言って見せるならば、正座をしてそのまま腰を前に倒した、感じで。

その頭は俺の膝の(膝というか、太腿というか)上、だ。

「……………」


静かに、ゆっくりと不動は肩を揺らして息をする。
躊躇いがちに俺の服の袖を握る不動は、小さくううー…と唸っている。いたい。…いたい。くっそ…。不動がもらす言葉に、何もしてやれない自分が申し訳なく思えてくる。

「代わってやれたらいいのにな」

頭を撫でつけてやると、不動がぴくりと揺れた。もぞりと動いた不動は、伺うように俺を見上げてきて。
ちらりと髪の間から大きな瞳が覗いてきてるのを見て、一気に心拍数が上がった。何だその動作はお前俺をどうしたいんだ。

「…本当に痛いんだよ」
「だから代わってやりたいんだ」
「駄目だよ男が味わったら死んじゃうね」

ゾッとした。

「そ、そこまでか?」
「うん。だからいいよ」

ね、と言われて、逆らえないままに頷く。そうすると、苦しそうな顔をしたまま不動は微笑んだ。

そうやって、差し出された手のひらを、思わず手に取った。
ふふふ、と可愛く息をもらした不動が。そのまま口を開く。


「この手、握ってくれてたら、それだけで」






20120105
私が腹痛い。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -