「うーん」
首を捻った不動を見て、どうかしたんだろうか、とゴーグルの奥で目を瞬いた。
口を開く前に不動の手元へ目をうつす。
青色の糸。
糸というか、毛糸玉。
それと、毛糸で作られた、何か。
まあ。
俺は。
あれはマフラーではないだろうかと。
思っているのである。
ンッンと喉をわざとらしく鳴らすと、不動がふわふわの髪を揺らして俺を見上げる。
ソファに座って編み物をしていた不動と、立ち上がった俺とで。
見上げる不動のキョトンとした顔に、何だか言いようのない感情が湧き上がって照れてしまう。
かわいい。
不動はどうしてこんなにかわいいんだ。
「なに。わざとらしい咳しちゃって」
「…いや」
かわいいなんて口に出したら照れてしまう、というか怒るかもしれないので、言葉を濁す。
隣に座ると、もぞもぞと不動が動く。ちらと見ると距離を気にしているらしかった。
そこまで近い距離には座ってないつもりなんだが。
ちょっとムッとして顔を向けると、ギョッとして不動は狼狽えてみせた。
「な、なに」
得意になって顔を寄せる。パクパクと口を開閉させる不動の顔は赤い。かわいい。
「…や、あの、待って鬼道く、」
「―――不動」
「……あ、」
引き寄せられるままに口を寄せた。
不動の唇は柔らかい。あと小さい。
何だか熱に浮かされてる気分になる。右手で不動の頭を支えて、口を少し強く押し付けた。
啄むようにしてしまえば、今度は不動に肩を叩かれた。
顔を離して、やばいぞ怒られるかもしれない、と思って覗き込むと。不動は涙目だった。
「…ばかやろ」
「……」
どうして。
どうしてお前、そんなにかわいいんだ。
衝動で、抱き寄せたくなった体をどうにか抑える。
「すまない」
目を閉じて深呼吸をすると、不動はフンと小さく鼻を鳴らした。らしい。
俺はやっぱりそんなに理性が強くないのかもしれない。衝動が湧き上がった瞬間にそれに従ってしまう。殊、不動に関しては、そうだ。抑えが効かない。
時々それが不動を傷付ける要因にならないか、不安になる。
目を開けると不動は自分の膝上の毛糸に目をやっていた。目尻が赤いのを見て、俺は右手の甲をつねった。
やはり痛みがあればハッとするから、抑えが効かない時は自分を殴ればいいだろうか。
「編み物、最近やってるようだが」
「まあ」
不動は俺の言葉にぱちぱちと瞬きながら答えた。
誤魔化したい、といった雰囲気に。期待が高まる。
「けっこー難しいんだよなー」
ここ絡まったし。
白い指先が示すそこは確かにほつれていた。が。
「俺はこういうのもいいと思う」
手作り感がある。
というのは一応心の奥に忍ばせながら、多分、声音はうきうきな気分を隠せなかった気がする。
「そーかなあ?」
鬼道くんけっこー完璧にしたがりそうだけど。
そう言いながら不動は膝の上の毛糸玉をツンと突いて転がす。小さく揺れて、けれどそのまま落ち着いた。
完璧がいいって訳ではないが。まあそうかもしれない。
けれどこれに関しては別だろう。いや本当に。
何てったって手編みだ。手作りだ。
不動が神経質に完璧を目指したなら彼女の事だ、きっと既製品並みの出来になるだろう。
それはちょっと虚しいものがないだろうか。
「ところで編み物、最近よくやってるが」
「あ、うん」
これもね。
そう言って編みかけの物体をまた弄り始めた不動に、鬼道は口を開いた。
「何を作るつもりなんだ?」
まあ。
ちょっとしたイタズラ心だ。
普通プレゼントする相手に何を作るんだなんて聞かれたら、焦るのではないか、と鬼道は考えて。
それを見たいと思うあたり、自分がそんなによくない性格だと実感する。
というか不動はこんな目の前で作ってるから聞いてもいいんじゃないか。鬼道は心中で呟く。
もしかしたら目の前でしたらバレないか狙ってるのかもしれないが。
そうして不動がどう反応するのか。
少しわくわくしながら覗き込むと―――
「ああこれ?ペンギン」
「…ぺ、ペンギン?」
「うん。ペンギン」
「マフラーじゃなく?」
「うん?」
「あー、…ぬいぐるみ?」
「……なんか悪い?」
「いやかわいい」
カッと頬を赤らめた不動に、少しほこほこと胸の内が暖かくなりながらも。鬼道は頬をひきつらせた。
違った。
マフラー違った。
「(………しにたい…)」
20111225
メリークリスマス。
あきおちゃんの手編みマフラー欲しい。